派遣生レポート

マレーシアから学んだこと

東京未来大学 モチベーション行動科学部 モチベーション行動科学科 3年
松村怜士

はじめに

マレーシアと聞いて、皆さんは何を想像するだろう。
どんな人が生活しており、どんな建物があって、どんな宗教や文化があるのか。 私はこのプログラムに出合うまでマレーシアについて考えることは一度もなかった。 しかし、大学でASEAN諸国についてのお話を聞く機会があり、その中の1つであるマレーシアについて初めて知識を得た。「日本人は無宗教」という言葉を以前どこかで聞いたことがあるが、この世に生を受けてからたしかに食や衣類に関する規制といったものを経験したこともなければ聞いたこともない。日本で生産されたものはもちろんのこと、様々な国から輸入された衣類や食物になんの疑問も抱くことなく、当たり前のように身にまとっては、食べている。しかしマレーシアはどうだろう。日本とは異なり、様々な規制がある。世界的によく知られているイスラム教徒、ムスリムは豚肉を食べてはいけない、お酒を飲んではいけないという規制が存在する。マレー系、中国系、インド系、そして先住民族で構成され、様々な文化が混在する国マレーシアでいかにして人々がお互いを尊重しあい、共生しているのかという点に疑問を抱いたというのがマレーシアに対する興味のはじまりだ。

現代はネット社会といわれるほどグーグルやヤフーで自分が知りたい情報を検索すれば大半の情報を得られるといった便利な社会である。いつでも自分が得た経験や持っている世界観、人から聞いた話など誰でも投稿することができ、公開、閲覧ができる時代。しかし、それが真の情報であるかどうかは自己の判断に委ねられる。では真の情報を得るにはどうすればいいのか。「失敗は成功のもと」ということわざがあるが、失敗をするためにはまず経験をする必要がある。家やカフェでのんびり画面とにらみ合いをしていては経験することなどできない。自ら現地へ出向き、たくさん人と出会いフェイストゥフェイスで話をすることが極めて重要であり、そこからしか得られない情報が多数存在すると私は思う。そのような想いを胸にこのプログラムに参加した。

羽田から飛行機に乗ること約7時間。クアラルンプール国際空港(KLIA)に着陸した。バスに揺られながら景色を眺めていると私の目に飛び込んできたのは広大な敷地に見渡す限りのパームツリー。  事前にマレーシアの町並みなどの景色を様々なツールで把握していた私は非常に驚いた。 なぜかというと、イメージとしては高い建造物が立ち並び、溢れんばかりの車や人がある景色を想像していたからだ。そんなことを考えながらバスに乗ること約1時間。先ほどとは打って変わって私のイメージ通りの光景が広がっていった。これからの3週間をここで過ごし、文化や歴史、語学を学習できると思うと非常にワクワクした初日の心境を今でも鮮明に覚えている。ここからは、3週間に渡るマレーシア夏季学校で様々なアクティビティを通して感じた最も印象的な2つのことを記していこうと思う。

近未来都市から学ぶマレーシアのシステム

休みの日は、ショッピングモールや観光地に足を伸ばし、積極的に街に出ることを心掛けた。チャイナタウンに行った際には、日本に行ったことがあるという現地の方とお話をする機会もあり、その方が受けた日本の印象なども聞くことができた。たくさんの人が共通して話されていたのは、日本の物は非常に高いということや、抽象的ではあるが日本は美しいということだった。お店で働く現地の人との会話を楽しみながら買い物をしたり、ライトアップされたペトロナスツインタワーやKLタワーの煌びやかさに感動をしたりと驚きと発見の連続に胸が躍った。そんな中、私が日本でぜひ取り入れてほしいと思った2つのシステムがあるので紹介する。

1つ目としては、電車やモノレールの乗車券に関するものである。 日本でも多くの方が利用されているSuicaをはじめとした電子マネー。マレーシアにも同じようなものがあるのだが、驚いたのは「切符」である。
 日本は紙製のものであるが、マレーシアではプラスチック製の「トークン」と呼ばれる青い色のコインのようなものであった。なぜ紙ではなくコインを切符としているのだろうか。コインであれば紙のように1回利用したら捨てるということはなく、繰り返し活用できるからではないかと私は考えた。日本が世界に誇る言葉の一つとして、「もったいない」が挙げられる。この言葉は、日本人の美徳を表す言葉として世界に認められているが、果たして当の日本はどうだろうか。私は平成生まれなので昭和の時代をあまり知らないが、食に関して挙げてみると、食べ物が現在のように豊かでなかったため、ご飯粒1粒も残さず食べるように言われていたという話を以前耳にした。しかし現在では年間約2000万トンもの食品廃棄物が排出されているという。世界第2位の経済大国といわれる日本。「もったいない」という言葉を世界に誇るためにも必要な分だけを取り入れ、大切に消費していく精神。また個人ベースとしては食に限らず常に様々なことに対し、もったいないと感じる精神を持つことが重要である。もし今後、世界に認められる国にしていくのであれば資源を大切にし、リサイクルするといったエコな思想のこのシステムはまさに必要であり、日本でも活用してほしいと思った。

2つ目としては、大型のテーマパーク「サンウェイラグーン」内で使用するリストバンドである。入場後に腕に装着するリストバンドにはお金のチャージ機能が内蔵されており、自分が使用する分のお金をチャージすることが可能である。そのため、財布を持ち歩く必要もなく、盗難などの心配もなくなるため手荷物を全てロッカーに預け、テーマパーク内を満喫することができる。日本にも東京ディズニーリゾートやユニバーサルスタジオジャパンなど大型なテーマパークが存在するが、もしも入場券としてお金のチャージ機能があるリストバンドを導入することができれば個人としても安心して楽しむことができ、事前に盗難などのトラブルを防ぐことができる。財布を常にポケットやバッグに入れてなんの警戒心もなく歩けるというのが、日本の治安の良さを象徴しているという考えも浮かぶのだが、より安全な国であることを世界にアピールするためにもこのシステムはぜひ日本に活かしてほしいと感じる。

ホームステイでの経験

プログラムの1つとして1泊2日のホームステイがあった。私自身、短期留学は2回目だがホームステイを経験したことはなかったため、文化の違いをしっかりと受け入れることができるか、お世話になる家族の方々やその地域に住む方々とうまくコミュニケーションが取れるかがとても心配であった。しかし、いざ現地に降り立ってみると民族衣装を身にまとったマレー系の方々が満面の笑みで握手とともに迎え入れてくれた。言語はマレー語。それまで私は一度もマレー語に触れたことがなかったため、非常に新鮮であり、何と言っているのか知りたいという好奇心が芽生えた。2人1組で1つの家庭に宿泊したのだが、私がお世話になった家庭は基本的にマレー語で会話をし、少々英語が通じるといったところで元気な幼い女の子と男の子、そしていつも優しく、笑顔なお母さんが印象的で非常にあたたかい雰囲気であった。

アクティビティとして行ったココナッツミルクのシリアル作りや楽器の演奏、魚とり、パームツリーの葉やココナッツを使っての遊びなどを通じて、マレーシアの広大な自然の中で日本では経験できない貴重な体験をすることができた。また、不思議と常に安心感に包まれるような優しい気持ちになっていた。
 こうした体験の中で私は、現代の日本は都市開発や土地の開拓、様々な資源を得るためだけに先を急ぎ、自然がどんどん失われつつあるということにあまり目を向けられていないのではと強く感じた。都市を離れれば未だに多くの緑を見ることは可能であるが、少なくとも幼いころに見ていた緑の多い美しい景色や空気を美味しいと感じること、風を感じるといったことは減ってきているように思う。時代とともに子供たちの遊びも変化し、現在では公園で遊ぶというより、家でテレビゲームをするいわば“インドア”な子が増えたように感じる。しかし今回お世話になったホームステイ先の子供たちには、泥だらけになりながら魚とりに夢中になる姿、みんなで一つのボールを使ってコミュニケーションをとりながら遊ぶ姿など、現代の日本には忘れ去られつつある「自然との共生」や「人と人との温かな関わり」を垣間見ることができた。このようなことを感じ、教わることができたというのは非常に大きな収穫であった。

そんな楽しく安らかな学びの時間もあっという間に過ぎ、最終日の食事の時。私は不思議な体験をした。食事を済ませるとお母さんがマレー語でなにかを話していたのだが、当然内容ははっきりと理解できない。しかし「またいつでも帰っておいで」と言われた気がしてたまらなかった。それはまさに言葉の壁を越えた瞬間であり、表情やジェスチャーで想いを伝えることは可能であるとお母さんから教えてもらった瞬間であった。人の温かみに触れ、大自然に囲まれながら伸び伸びと体験できたホームステイの経験はいつになっても忘れることのない宝物になるであろう。

最後に

最後になるが私自身、街を歩けば高層ビルが立ち並ぶ景色を日常的に見ており、明らかに変化していく街並みも時代の変化のせいであると自然に受け入れてきた。それは、経済が良い方向に向かっているという象徴なのだろうが、なんだか寂しいという気持ちが私の中にはある。もしマレーシアのように、歴史ある建造物や昔からの文化を現代に受け継ぐ精神、広大な自然の保護、多文化を尊重しあいながら共生する人々の温かさがある国に日本がなることができたらどれだけ幸せだろうか。時代が変わっても残すべきものは残し、発展させるべきものは発展させる。マレーシアに学ぶことはたくさんある。「ルックマレーシア」。これからの日本を背負う私たちが広い視野、チャレンジする精神を持ち、変えていくためには、極めて重要である。