参加学生レポート

ペナンの「ホスピタリティー」

慶應義塾大学 経済学部 経済学科 4年
坂本 明日香

<プログラムに応募した大きな理由>

ペナン春期学校2016。この10日間は、私にとってかけがえのない体験となった。想像を超える刺激的な毎日を過ごしたからである。

ジョージタウン内を散策した際の一枚
 私は姉がムスリムであることから、モスクに訪れるマレーシア人の方と交流が多々ある環境にいる。そのため、イスラム教を始めとする宗教に関心を持っている。常々私は日本に住んでいるムスリムの方の過ごしにくさを感じていた。それは、例えばハラルな食事の少なさや礼拝所の少なさに如実に表れている。日本が徐々にグローバル化しているとはいえ、日常生活まではグローバル化していないことを肌で感じていた。そんな時、このプログラムに出会った。一国内でいくつもの宗教が信仰されているマレーシアとは一体どのような国なのか知りたい。旅行では学べない、多宗教の国マレーシアの歴史、文化、そして人々の人柄に触れてみたいと思った。これが今回このプログラムに応募した大きな理由の1つである。このような思いを抱いてマレーシア、ペナンの地に降り立った私が感じた事を以下に記したい。

<ペナンの方々のおもてなし>

空港で出迎えて下さった現地の方々との最初の記念撮影
 この10日間で最も印象的だったのは、このレポートのタイトルでもある「ホスピタリティー」である。日本がオリンピック招致を行った際、滝川クリステルさんの「おもてなし」が話題に上がったことは記憶に新しいと思う。さりげない行動の中にも相手のことを思いやる精神が垣間見られることを、私は「おもてなし」と解釈している。このことからも感じ取ることができるように、日本の良さの1つに相手を敬う気質があることが挙げられると思う。その一方でどこか思いやり、おもてなしは日本独自のものであるというイメージを持ってしまっていたことに、ペナンに訪れたことで気付かされた。ペナンに滞在している間、現地の方々が見返りを求めず私達に親切に対応して下さったからである。
それをまず感じたのは、飛行機を降りた直後だった。集合場所を探し空港のエントランスに向かうと、目の前に大きなwelcomeボードを持った大勢の方が出迎えて下さった。こんなに多くの方々がこれから私達をサポートして下さるのかと驚いたのを今でも覚えている。これを皮切りに数々のおもてなしをして下さった。

<ご教授して下さった方々の姿勢>

ジョージタウンを案内して下さったPHIの方と共に
 最初のプログラムとして、ジョージタウンを巡った。冬の寒い日本から暑いペナンに来たため、ペナンの気候に体がなじむのに少々時間がかかったことが思い出される。 2008年マラッカと共にユネスコ世界文化遺産として登録されたジョージタウンは、イギリスの植民地であった時代に建設された建物や、様々な宗教が融合している街並みを見ることができる。同じ通りにモスクやヒンドゥー寺院、中国寺院が存在する、通称ハーモニー通りがその代表である。
このような知識は、現地のガイドさん(PHTの方)が教えて下さった。彼は常に私達の体調はもちろんのこと、写真を撮る際のベストスポットの確保にまで気遣って下さった。また同行してくれた学生達も、説明に関して疑問や不明点はないかと気にかけてくれた。彼らになぜ同行してくれたのか尋ねると、日本から学生が来ることが楽しみだったからと言っていた。私はこのことから、ペナンの方々が心から私達を歓迎してくれていること、そして他者に対する真摯的な言動が与える喜びを実感した。

ニョニャ・ババについて講義して下さったMr.Choo
 次にペナンの方の思いやりを感じた出来事として、ニョニャ・ババについての講義を受けた際のことを取り上げたい。中華系の移民の男性と現地の女性との間に誕生した女の子をニョニャ、男の子をババと呼ぶ。彼らの慣習や食べ物についてご教授して下さった方もまた、とても友好的な方だった。
初めて学ぶ内容であることに加え英語での講義ということもあり、様子をうかがっていた私達に対し、対話による授業を行って下さった。一方的に説明するのではなく、質問を投げかけることで理解を深めさせてくれた。一見容易に感じるかもしれないが、この授業形式は学生から返答が来なければ授業が止まってしまう可能性があった。しかし実際はそんなことは起きず、いわゆる最高の授業となった。それは、彼が明るく笑顔でユーモアを入れながら私達が答えやすい雰囲気を作って下さったことに起因すると思う。学生の積極性をも引き出す人柄に感銘を受けたと同時に、このような人柄こそが多文化が共存する上で必須なのであろうと感じた出来事であった。

<現地の学生との交流>

ジョージタウンを巡った学生達とモスク前にて
このプログラムの主なものとして、現地学生との交流が大きな比重を占めていた。 宿泊していたホステル、プログラム、そして空き時間において現地の学生と共に過ごした。その交流の中でも様々なことを学び、特に彼らの「主体性」を強く感じた。
私は日本人参加者の中で最も年上であり、現地の学生の中でも私より年上の人はいなかった。しかし、彼らを年下だと感じる瞬間はなかった。学生が主となって私達を誘導してくれる機会が多かったからである。説明の仕方や大人数を誘う方法を熟知しており、とても信頼が置けた。友情関係であっても責任感を持ち、私達に不憫のないよう手配してくれた行為は、見習うべきものであった。

DISTED Collegeでの楽しい授業風景
 私はなぜこのような主体性を彼らが兼ね備えているか考えてみた。そして導き出した理由がふたつある。
 ひとつ目は、教育内容である。彼らが通う学校は、ホスピタリティーを強調している。その一例として、学生がコース料理を作り、お食事に訪れたお客さんをもてなすカリキュラムが存在する。実際に私達もお客さんとして体験させてもらったが、学生が行っているとは思えない質であった。普段から授業の一環としてこのおもてなしを学んでいる彼らは、自然と日常生活においても相手を思い、自主的に行動するようになったのだと感じた。
 ふたつ目は、多宗教の融合である。先述したようにペナンでは、イスラム教やヒンドゥー教、仏教等多宗教が共存している。そのため、同じ学校内でも友人同士が異なる宗教を信仰していることが当然のようにある。そのような環境下においては互いを避けるのではないかと思われるが、それどころか彼らは互いを尊重し合っていた。この状況が実現できているのは、彼らが自己を確立しているからだと思う。多くの考え方、文化が身近にあるからこそ、自分のあり方を明確に自覚しているのだと感じた。

<ペナンの方々と触れ合って>

ホームステイ先の子が巻いてくれたヒジャーブ
 よく海外から帰国した人達が、「日本を俯瞰できた」と言うことを耳にする。まさに私もこの言葉通りの体験をしたのだと思う。グローバル人材、日本のグローバル化について考えを巡らすたびに、私はこの10日間を振り返るだろう。なぜなら、客観的な視点から不足している部分を感じ取ることができたからである。今回私は、ホスピタリティーという観点から日本とペナンについて考えたが、もちろんそれを食という観点や、住居という観点でとらえても同様だと思う。十人十色の学びがそこにはあるだろう。
 各々の言動は、その人の思いやりそしてその人を取り囲む環境に影響される。反対に、思いやりは、他者の言動や環境により生じるものかもしれない。その因果関係は一概には言えないものの、少なからず相関関係があると学んだ。それが基盤にあり、その上に宗教や文化の差異が付随するような気がする。その基盤が強固であれば、民族を超えたグローバルさが実現できるのではないかと思った。

<最後に>
 共に10日間を過ごした日本の学生の皆、現地の方々、そして渡航以前からお世話になったペナン春期学校2016の運営事務局の方々にお礼申し上げます。 このプログラムで見たり感じたりしたことは、私の生涯の学びとなりました。
 このような機会を与えて下さり、誠にありがとうございました。今後も興味関心ごとの探求に、貪欲に邁進いたします。ありがとうございました。



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