派遣生レポート

Visit Malaysia-異国で得た経験-

獨協大学 外国語学部 交流文科学科
内倉 智依

異国に足を運ぶことで得られるものはなんでしょう。近年日本では、若者の海外離れがよくニュースとして取り上げられます。この傾向に関しては様々な理由が挙げられますが、中でもネットの普及が大きいといわれています。ネットの普及により世界が狭まり、身近に感じられるようになったというのは事実であり、今やネットさえつなげば世界中のどこでもつながることが可能です。そのため、ネットを通して他国の情報を得ることも容易であり、そこで得られる豊富な情報で満足する若者が多いため海外離れが起こっているとの見解が示されているのです。本当にメディアからの情報だけで世界を知ることはできるのでしょうか。もちろん、それは違います。メディアを通して得られるものは、第三者が得た情報でしかありません。どれほどの知識があっても、自分の目で見て感じた本物の経験に勝るものではないのです。

今回が初めての海外経験であった私にとって、このマレーシアで過ごした3週間はなにもかもがものめずらしく毎日が新しい発見の連続でした。そしてメディアを通した世界ではなく、本物の世界に触れるというのは本当に新鮮で得るものもたくさんあるということを確信しました。海外へ行ったことのある方ならわかると思いますが、実際に異国を訪れることで気づくことというのはとても大きいです。これは日本国内に留まっていたのでは経験できないことでもあります。私が今回このプログラムに応募したのも、なにかの媒体を通して見るマレーシアではなく、本物のマレーシアを肌で感じ学びたいと考えたからでした。現地へ実際に足を運んだからこそ気づくことのできたマレーシアの良さ、改善点、またそこから気づいた日本の良さ、今後の課題に触れつつ、このプログラムで得たいくつかのことを紹介していきたいと思います。

これがマレーシア!!

東南アジアの国といえば、どこか懐かしさを覚えるような異国情緒漂う街並みや自転車の走る通りを想像しませんかこれは私自身が出国前に抱いていた東南アジアの国マレーシアのイメージでもあったのですが、最初の一週間滞在したKL(クアラルンプール)はそのイメージからは大きくかけ離れたものでした。空高くそびえたつ高層ビルの数々、煌びやかなショッピングモール、道路を行き交う数えきれないほどの車、そして建設中の様々な建物。どれも自分が思い描いていたマレーシアのイメージとは異なっている一方で、ふと郊外に目を向けるとそこには前述のような東南アジアの景色国が広がっています。近代的な都会と、昔ながらの異国情緒漂うアジアの田舎が隣どうしに存在している。そこには「VISION2020」という政策が関係していました。2020年までの先進国入りを目標に、国民が一丸となって経済成長を進めるというこの政策は1991年マハティール首相が提唱したものです。街中で建設中の建物を多く見かけたのは、この政策に基づいた開発の一環であるものだと考えられます。私が見た郊外の風景も近いうちにこのように変わっていくのかもしれません。また、この政策を引き継いだ現首相であるナジブ首相が提唱する「Satu Malaysia(1 Malaysia )」のスローガンも滞在中何度も見かけました。これは「VISION2020」の達成には民族同士の団結が必要であるということを強く国民に訴えかけるもので、街中いたるところでこのスローガンのマークを目にしました。国全体で一つの目標に取り組んでいることが伝わり、政策に対する本気さが伺えたのが印象に残っています。

一方で、まだまだ改善の余地があるなと感じさせるところがあるのも事実です。自動車社会のマレーシアでは、日本では考えられないほど多くの車が道路を走っています。それにも関わらず日本の横断歩道や歩道橋のようなものはほとんど存在しないのです。歩行者が道路を渡る際には車を一度とめて手を挙げて渡るか、車と車の間を縫うようにして渡らなければ反対側に行く術はありません。これは観光客にとってもつらいですが、なによりそこで生活をする人々、特に子どもにとって危険な状況であるといわざるを得ません。また車の速度規制もそれほど厳しくないようで、teksi(タクシー)が一般道路でも100キロ近い速度で走ることは珍しくありませんでした。このような状況からマレーシアの道路上には減速を促すブロックが一定の間隔で置かれています。それによってスピードの出しすぎがある程度抑制されているといった印象を受けますが、やはり危険なことに変わりはありません。現地の友人に聞いたところ、そのような状況であるためマレーシアでは高校を卒業するまで親が車で子どもを送り迎えするのが一般的なのだとのことでした。どんなに国が発展しても、安心して暮らせないのでは意味がありません。そういった点では日本の交通整備がどれほどきちんとしているかということがわかります。安全な交通インフラを整えることは先進国入りを目指すマレーシアにとって必要であるといえるでしょう。

ホームステイ先の子供たちと触れ合って

今回のプログラムではALEPS(Alumni Look East Policy Society)の方々のご協力を得て、それぞれ2泊3日のホームステイをさせていただきました。滞在先はルックイースト政策でかつて学生として日本を訪れたことのある方のご家庭でした。3日という短いホームステイではありましたが、本当に楽しい時間を過ごすことができました。このホームステイの中で私の印象に残っていることの一つに、子ども供たちの英語力の高さというものがあります。私がお邪魔させていただいたご家庭には二人の女の子がいました。一人は幼稚園児、もう一人は小学生で、彼女たちと遊ぶときは英語で会話をしました。私のたどたどしい英語を聞き、子どもたちが流暢な英語で返事をしてくれる。そんなちょっと笑える場面が何度もあり、なぜこんなに英語が上手なのかとホストファザーに尋ねたところ、楽しんで勉強しているからという答えが返ってきました。マレーシアではふつう小学校から英語の教育が取り入れられています。ところが英語教育を始めるのは早ければ早いほうがよいということで、家庭によってはもっと早い時期から英語教育を取り入れることもあるのだそうです。また英語教育の強化を図る政策の下、マレーシアでは国の取り組みでテレビ放送における英語放送の割合が決められています。そのため子どもでも日常的に英語に触れる機会を自然に得て、話せるようになるということでした。日本と違い、英語教育が幼いころから始まるマレーシアでは、英語は勉強ではなく一つの遊びのようにして覚えていくのです。なるほどまだ5歳のホストシスターが英語を話せたのはそういうわけだったのかと納得しました。

マレーシアは言わずと知れた多民族国家ですが、民族間の衝突はほとんどないそうです。理由はいくつかあるのでしょうが、互いに意思の疎通を図れることということが一つの大きな理由として挙げられるでしょう。英語という言語ツールを利用することで、異なる人種であっても気持ちを伝えあうことができます。結果としてコミュニケーション欠如による誤解を防ぐことができ、相互理解にもつながるのではないでしょうか。やはりツールとしての言語は必要だと感じるとともに、改めて英語教育の重要性を認識しました。今後日本が様々な形で外国人を受け入れることになったとき、このツールとしての英語は異なる人種間で互いを尊重しながら暮らしていくために必須となるということを再認識したのです。英語教育に関して熱心なマレーシアを、日本も見習う必要があるのかもしれないと感じました。

ルックイースト政策学生の今、そしてIUKLでの学び

マレーシアで過ごした3週間の中で素敵な人々にたくさん出会いました。中でも、かつてルックイースト政策のもと日本で学んだ留学生の皆さんとお話しできたことは本当に貴重な経験でした。日本語ガイドのアスカリさん、Dream EDGE社のAdriさん、そしてホストファザーのZainuddinさん。どの方も、真剣に私たちの話に耳を傾けて聞いてくださり、またアドバイスもいただきました。母国に戻った今でも日本に関心を持ち、また日本についての考えを持ち続けてくださっているということがその言葉一つ一つに表れていました。中でもAdriさんからは国際的な視野を持ち、長期的な視点で物事を捉え、常に挑戦し続けることの大切さを教えていただきました。またAdriさんのおかげで、今回マハティール元首相にもお会いすることができました。

IUKL(Infrastructure University Kuala Lumpur)でも、たくさんの素晴らしい学生たちに出会いました。彼らと過ごし話をする中で自分の視野の狭さや知識の浅さを知り、さらに自分が物事の本質を見抜けていないということに気づきました。また、彼らと会話をする中で言いたいことがうまく伝えられないもどかしさも経験し、自分の英語力の低さを痛感しました。これらはすべて日本にいては気づけなかったことだと思います。大学を離れる際、彼らは2020年東京オリンピックを絶対に見に行くからその時にまた会おうと言ってくれました。その時までに、これらの課題と正面から向き合って自分の力に変えていけるよう努力していくつもりです。

マレーシアでの経験を次につなげるために

日本でできない経験や、マレーシアの人々との触れ合いを通じてなにを学んだのか。ルックイースト政策で学んだ学生たちのように今後の日本の社会にこの経験が活かせるのか。今はまだうまく答えが出せませんが、確実に自分の中でなにかが変わりつつあります。これから日本の社会の中で自分がどのような役目を果たしていくべきなのか。一人の日本人として、一人の日本の未来を担っていく大人としてどう行動していく必要があるのか。ただ考えているだけでは意味がありません。考えをすぐに具現化できる人間になることを今後の目標に掲げ、IUKLで出会った友人たちが2020年に日本を訪れた際、私がマレーシアで受けたような感動を受けてもらえるような素晴らしい国にしていきたいと思います。

最後に

LMP2013メンバーのみんな、各関係各所の皆様、そしてなによりこのような素晴らしい機会を与えてくださったマレーシア政府観光局の皆様、本当にありがとうございました。心から感謝の気持ちを込めてTerima Kasih!!