派遣生レポート

日本から観るマレーシアの善きもの

成蹊大学 経済学部 経済経営学科
小林 隆人

私たちは世界に目を向けた時、人類の歴史上いまだに解決されない様々な問題があることを知ります。これらの問題を解決するため地球上において人間お互いの尊厳を理解し合うことが必要とされている今日、一つの国家に多様な人種の人々が共生しているマレーシアから学べることは多くあるはずです。今回私は第三回ルックマレーシアプログラムに参加し、マレーシアにて企業訪問、名地観光、ホームステイ、現地大学での講義など、用意していただいた様々な体験をさせていただきましたが、それらはどれも内容が濃いものでした。このプログラムを通して自分が感じたことを素直に記していきます。

国を愛する精神

先ず、マレーシアにて強く印象に残ったこととして挙げられるのは、国民が持つ強い愛国心です。その表れが町のいたる所で見かけた国旗の掲示と、現地学生が抱く母国への貢献意志でしょう。マレーシア国旗は建物の上から吊り下げられているものから民家の玄関に置けるような小さなものまであらゆる種類のものがありました。広々とした青空の下で国旗が魚の群集のように泳いでいる光景は、日本人である私に違和感に似た新鮮さ感じさせつつも、それと同時に、愛国心によって国民と国家が育む “調和の美しさ”を垣間見せてくれます。自分が何人であるかを自覚させてくれるこうした景色は、見ている側をすがすがしい気持ちにもさせてくれるのです。
 さらに、現地大学で知り合った学生と話している時にも、愛国心について考えさせられることがありました。現地の学生達はとても寛容的で、親日派が多い印象を受けます。僕は彼らに対して大学卒業後はどのようなことをするつもりなのかと聞いたのですが、その時彼らは自分が勉強した技術で国をより発展させたいと語ってくれました。現地学生たちは自分の将来についてしっかりとビジョンを持っているだけでなく、彼らは仕事を通して国に貢献したいという意志を持っていたのです。
 日本にて多くの国旗が飾られることを期待するわけではありませんが、国民が愛国心を持つことによって国が活力を得るという両者の関係性は、よい相乗効果をもたらし、国家をより理想的な形に近づけるのかもしれません。

環境と国民性

次に私がマレーシアにて感じたのは国全体に満ちている“穏やかさ”です。マレーシアが自然豊かな国だということは出発する以前からガイドブックを見て通して知っていたのですが、現地で実際に見た海岸の風景や草木の茂る森林はやはり美しいものでした。路上販売していた日本では見かけないような新鮮なフルーツもおいしかったです。こうした自然物は大空と調和し、マレーシアの建築物と華麗に共生しています。地球上ならどこでも見ることが可能であろう大空でさえ、マレーシアの自然や建築物の背景になると日本で普段見ているものとかなり違うものに感じられるのです。そして何よりも生活と自然が調和を生み出すことで、そこには穏やかな時間が流れます。このような環境で過ごす人と、人工物であるビルが立ち並ぶで中で生活する人とでは生きることに対する考え方が当然異なるはず。マレーシアに住む方々には日本と比べて心が穏やかな人が多いという印象を受けました。

多くの人は初対面であっても私に笑顔を向けて挨拶をしてくれましたし、喋りかけてくれるのです。様々な場面にてそのような好印象を抱いたのですが、その中でも特にホストファザーとの屋台での朝食時に強く感じました。朝食ではマレーシアの定番料理であり私が滞在中に好きになったロティ・チャナイを食べていたのですが、その時に偶然ホストファザーが友人を見つけたらしく途中から5人ほどで机を囲みながら会話を楽しんでいました。

最後に記念写真を撮ることになったのですが、その準備をしている最中に他のテーブルにいた方々も立ち上がり、みんなで写ろうということになったのです。経緯はともかく、こうして見知らぬ人たちともコミュニケーションができる。そしてすぐに仲良くなることができる。このようなことが可能な所以は彼らの心の中には他を受け入れる寛容性があるからなのだと思います。

マレーシアは一つの国家ですがそこでは多様な人種の人々が共生しており、一つの国家の中に主として一種の人種が生活している日本とは全く異なります。自分とは異なった人種や宗教を持つ人と共に生活する環境では、必然的に他との違いを受け入れるようになり、それに対する畏れを抱かなくなるのかもしれません。広いこの世界の中で自らの存在意義を見出すためにはこのように幅広く他を受け入れる寛容性が大切であり、異種に慣れていない日本人はこのことにより留意する必要があると思います。そして、このことは留学をする一つの意味ともなり得るはずです。

発展の意義

マレーシアは2020年までに先進国入りを目指しており、いままさに発展を続けている最中の国です。現地点では中進国と位置付けられており、先進国である日本との間には様々な違いがあります。物価や人件費は日本と比較するととても安いため、朝食は3RM(約100円)で済みました。また町で見かけたレストランの求人情報には時給8RM(約260円)で募集と書いてありました。バスで高速道路を走っていると、道路の両端には日本では見たことがないような形をした木々が群をなしています。その他にもインフラのクオリティが日本と比べて低いことや、イスラム教が国教となっていることなど、違いは山ほどあり、列挙をし始めるときりがないほどです。しかし、これらの差異は優劣を表すものではありません。私がこの留学を通して、これらの差異とはただ「異なる」というだけであり、劣っているように見えるものも実は本質的に優れていることもあると感じました。もちろん、マレーシアの地を踏んでから最初の一週間が経つまで、日本の生活にすっかり慣れている私は不便さを感じる場面によく出合いました。しかし、現地での生活に慣れてしまうとそれまで感じていた不便さは薄れ、それとは逆に居心地の良さを感じるようになりました。GDPとは無関係で存在している居心地の良さ、言い換えると、人の心に余裕をもたらすようなエネルギーがマレーシアにはあります。この素晴らしいエネルギーは、多民族国家であることから育まれた寛容性の心、恵まれた大自然、発展しすぎていない社会、などによって形成されたのではないかと考えます。

対照的に、発展した国家に属する日本人は傾向としてサービスの精度にこだわり、よい成果を得るため多くの努力を注ぎますが、その結果として心の余裕が失われつつあるのではないでしょうか。最低限の発展を遂げた後もより生活を豊かにするために技術開発を目指していますが、豊かになったのは“もの”であり、人の心ではありません。私たちが取り組むべき本当の課題は何であるのか。いま私たちが歩んでいる道のりは私たちを目的地に連れて行けるのか。向かうべき場所とは私たちが背を向けている方角にあるのかもしれません。

最後に、私はルックマレーシアプログラムを通してマレーシアの良さをとても感じたと共に、今まで自分が普通だと思っていた日本での生活についても深く考えさせられました。このような機会を与えてくださったマレーシア政府観光局の方々を含め、このプログラムなくしてはあり得なかっただろう全ての出合いに感謝します。