派遣生レポート

Learning never ends

東京大学 教養学部 理科一類
衣松 佳孝

8月25日早朝、機内でほとんど眠ることができず、僕は早くも疲れ気味で薄暗いマレーシアの地を踏んだ。記念すべきマレーシアの第一印象は意外なことに「涼しい・・・」だった。

今回このルックマレーシアプログラムの派遣学生として、3週間マレーシアで様々な体験をする機会を得た。そのレポートとしてこのプログラムのおおまかな内容、3週間を通して印象に残ったこと、そしてこのプログラムを通して考えたことを述べようと思う。
 マレーシア滞在一日目は終日市内観光。空港付近の一面にパームツリーが広がっている光景に、ステレオタイプ的な東南アジアを感じていたが、クアラルンプールに近づくにつれ景色は変わっていき、巨大な建物群が眼前に現れてきた。マレーシアの首都Kuala Lumpurは一見かなり発展しているようにも見えるが、一歩路地裏に入ると古い建物も多くあり、そのような点ではいまだ現在進行形で発展途上、まさに新旧が混在している都市であった。

まず、今回参加した理由は、端的に言えば学びと挑戦の為である。将来私は日本の教育を少しでも良くする事に貢献したいと思っている。自分が受けて来た教育は決して良いといえるものではなかった。だが教育はその国の未来の全ての基盤で、常に研ぎ澄ましていくものなので、何らかの形では自分なりに貢献していけると考えている。ただし今は、高校の教師のような何か特定の職業に決めるのではなく、もう少し違った側面から柔軟に考えたいと思っている。とは言っても日本ばかり見ていては、視野が広がらず見えない物もあるので、海外も見たいと思っていた所このプログラムの話を聞き、しかもマレーシアという普段では想像さえしない国に興味を抱いた。成長している国というのは知っていたが、どういう教育が行われ、どんな環境なのか未知であった。そういう未知に飛び込むという挑戦は最高の学びで、闘いだ。そういう思いでこのプログラムへ応募した。

二日目以降はマレーシア政府観光局本局訪問、マレーシア日本大使館表敬訪問、JETRO訪問、Air Asia社訪問、AAJプログラム見学、DreamEDGE社訪問、SHINKO訪問と、瞬く間に過ぎていった。これらの訪問を通して、現在のマレーシアの状況やその中での日系企業の動向、そしてマレーシアで活躍するベンチャー企業についてかなり深くまで知ることができたと思う。特にAAJプログラムの見学では、マレーシアの学生の堪能な日本語に驚愕し、自らの語学学習へのモチベーションとなった。また、Dream EDGE社のAdri社長の話を聞き、その確かな志とあふれんばかりの熱意、そして楽しそうに仕事について語っている姿がまぶしく見えたとともに、自分もそうありたいと思った。

そしてマレーシア滞在6日目からはLook East政策で日本へ留学していた方々の同窓会であるALEPSの同窓生の方のお宅へホームステイさせていただいた。ホームステイ初体験の僕はかなり緊張していたが、日本語を話すことができ、とても親切なホストファミリーに予想はいい意味で裏切られた。ホストファミリーにはi.cityやブルーモスク、ピンクモスク、朝市、オープンハウスなど本当にいろいろなところへ連れて行っていただいた。二泊三日とあまり長くはないホームステイではあったが、すっかりマレーシアに染まった僕は、食事は箸などを使わず手でした方が楽だなと思うようになるほどであった。

そして残りの2週間程度はInfrastructure University Kuala Lumpur(IUKL)にて講義を受講した。平日は基本的に講義であり、週末には世界遺産の古都マラッカやアミューズメントパークのSunway Lagoonなどを観光した。その中でもDream EDGE社のAdri社長に招待されて参加したInnovation Showcase はとても印象深かった。Look East 政策を始められたマハディール元首相も参加しており、握手と短い時間ではあったが会話もすることができた。一生に一度できるかどうかもわからないような貴重な体験をすることができ、僕の心臓は高鳴りっぱなしだった。大学での講義では、マレーシアの歴史や文化、マレー語などに加え、プレゼンテーションスキルやマーケティングなど多種多様な講義を受けることができた。それらの講義がすべて英語で行われたことや、大学でできた友達と英語で会話をすることで語学力も向上させることができたと思う。 さて、ここまで具体的なプログラムの内容を述べてきたが、ここからは3週間を経て得ることができた数ある経験を少し抽象的に分類し、全体としてマレーシアという国についてまとめてみようと思う。

まず食について。マレーシアで食べた料理はバラエテイに富んでおりどれも本当においしかった。中国系やインド系など様々な種類があり、一口にマレーシアで食べた料理といっても、そこには多様な食文化が存在していた。僕にとってマレーシアで食べた料理は率直に言うと極端に辛く、極端に甘いといった感じであった。何度か軽い腹痛に襲われたものの、運よく辛さや食べ物によって胃腸がノックアウトされることも、天敵であるパクチーに出くわすこともなく無事に3週間を過ごすことができた。

次に宗教について。日本にいると宗教を意識することは少ない。そしてイスラム教となると、日ごろ触れる機会はほとんどないのではないかと思う。そんな中、今回教科書以外で初めて生のイスラム教というものに触れた。マレーシアではイスラム教が多数派である。したがって日常生活の中にイスラム教が深く浸透していたように思う。正直なところ、今まで日本にいてイスラム教に対し先入観のようなものを持っていた。しかし今回のプログラムを通して、壮麗かつ細部にまで美しく細かい装飾が施されたモスクに圧倒され、祈りをささげているホストファミリーの姿が美しくまぶしく見えた。またイスラム教の教えの中のラマダンの理由についてホストマザーから聞く機会があり、とても感銘を受けた。もちろんイスラム教だけでなく、マレーシアの中では仏教寺院、ヒンドゥー教寺院も目にすることができた。日本の中にもさまざまな宗教の行事などがあるが、それらは宗教色の薄められたものがほとんどであるように思う。しかしこのように複数の宗教がそれぞれのアイデンテイテイを失うことなくごくごく身近に共存しているのは本当に驚くべきことであった。

最後に人について。見学させていただいたAAJや大学でであった学生たち、お世話をしてくださったLook Eastの同窓生の方々、ホストファミリー、そして街中のおじさんたち、みなとてもフレンドリーで、瞳がキラキラしていた。なかでも印象深かったのは日本に対してみなとても好印象を持っていることであった。市場であった男性も僕が日本人とわかると日本語で 「元気ですか?」と話しかけてくれ、日本人と言って嫌な顔をされることはまずなかった。僕が3週間充実した生活を送ることができたのも、マレーシアの人々の優しさ、親切さによるところが大きかったのだと思う。

マレーシアは様々な民族・文化や、新しいものと古いものなど、本当にいろいろなものが混ざり合っている国であった。これらひとつひとつの要素がお互いにぶつかり合うことなく尊重しあい、受け入れあい、そして調和しあっている。このことは口でいうのは簡単かもしれないが、実際に行おうと思うとどんなに難しいことかは想像に難くないと思う。これらの複数の要素が全体でモザイク画のように一つのマレーシアという国を形作り、全体として単色よりも美しい画を作っているように感じた。

こ最後にレポート全体のまとめとして、今回3週間のプログラムを通して僕が考えたことを述べたいと思う。
 まず初めに、やはり百聞は一見にしかず、そして百見は一験にしかないということ。情報化が進んだ今の時代、マレーシアのことを知りたければインターネットである程度の基本情報は瞬時に手に入る。きれいな写真だって難なく手に入れることができるだろう。よく言われることかもしれないが、それでも今回のプログラムに参加して、やはり行ってみなければわからないことが多くあったと思う。もちろん体験することはいいことばかりではない。街中にあふれるゴミを目の当たりにしたり、強引な客引きに困惑したりすることもあった。砂浜のぬかるみに足をとられサンダルを砂浜に献上することになったりもした。しかしこうした予想外のこと、いいこと悪いことすべて、やはり見るだけではなく実際マレーシアに行って体験してみなければわからないことだった。3週間を通して「知る」ことだけでなく「体験する」ことの価値を改めて実感した。

次に外から日本を見るということ、そして日本の学生として、これからどうしていけばよいのかということ。留学をした人などの話を聞くと、海外に出ると自分が日本人であるということを再認識するとよく言われる。再認識するというほどの立派な内容ではないかもしれないが僕も自分が日本人であるということについて考えるようになった。世界、特にアジアから日本がいまだに尊敬されており、自分はその日本人であるということを僕はプログラムを通して肌で感じた。そしておごりや優越感に支配されることなくきちんとそのことを認識して、それ相応の態度を示さなくてはならないと思った。ここでエピソードを一つ。ある日、ショッピングセンターに行くためにタクシーを使ったとき、僕たちが日本人だと分かった運転手のおじさんにこう言われた「Japan is one of the best countries in the world.」日本人である僕は、ご多分に漏れず謙遜したが、同時にうれしくもあり、恥ずかしくもあり、そしてどこか申し訳なくもあった。世界から信頼され、期待されていることをそもそも知らず、ただ日々を過ごしてしまっていた。今回のプログラムを通し、日本人として、日本の学生として、何ができるか考えるようになった。もちろん、今できることは学業に精一杯取り組むことだと思う。そしてこれから先も、今自分にできることを、全力で真剣に取り組んでいこうと思った。

このルックマレーシアプログラムを通し、感動すること、刺激を受けることに本当に数えきれないほど出合った。このプログラムを経て、3週間前の自分と今の自分を比べると明らかに何かが変わったとはっきり言うことができる。それほどこのプログラムは僕にとってかけがえのないものとなった。レポートの締めくくりとして、今回僕にこのような素晴らしい体験をする機会を与えてくださったマレーシア政府観光局の関係者の方々、ともに3週間共に過ごしたメンバー、Air Asiaの方々、ALEPSの方々、ホストファミリー、そしてマレーシアで出逢ったすべての方々に、感謝の気持ちを述べたいと思う。本当にありがとうございました。Terima kasih!