派遣生レポート

関西大学 外国語学部 外国語学科
西田 彩祐梨

~なぜマレーシアか~

「アジアの見識を深めたい」これは私がこのプログラムを希望した理由である。私はそれまで欧米志向が強く、英語と聞いてもアメリカ英語、行きたい国はアメリカ、ヨーロッパであった。しかし、実際にそのような国へ訪れてみた後気づいたことは、日本はアジアの中に存在する一国であり、アジアの中だけでも、多様な宗教、民族、価値観があるが、私はそれについてなにを知っているかということであった。つまり、もっと自分の周りの国であるアジア諸国への関心や知識を持たねばならないという危機感である。また、アジアの国々から日本がどう見られているのかにも強い関心があった。そこで、自分がアジアの国へ実際に行き、なにか経験したいと強く願っていた最中に出合ったのが、このルックマレーシアプログラム2013である。

~多文化共生のヒント~

クアラルンプールの空港に到着すると、そこにはマレー系、中国系、インド系の人々が混在し、すぐにこの国が多民族国家であることに気づかされた。この国の人口比は、マレー系62%、中国系22%、インド系7%、その他9%である。少し車を走らせると、いたる所にモスクが存在し、スーパーに行けばイスラム教で食することを許されている食品を示すハラールマークが目に入る。ここから、この国がイスラム社会であることが分かる。国教がイスラム教でありながらも、中国系、インド系の人達がマレーシアに住む理由はなんだろう。また、どうして多様な人種がこんなに平和に共生でき得るのか。
 一つ目の理由として、彼らは、単純に自分が生まれた国であるマレーシアのことが好きなのだろう。それは、現地で出会った学生や先生方、あるいは日本留学経験者ALEPSの方々が、最終的にマレーシアにこういう形で貢献したい、または、この国をこういう社会にしたい、ここが足りていない、などと当事者意識と目標を持っていたことから分かる。普段から自分の国について深く考えていなければ、そのような意見はすぐに出てこない。

二つ目の理由として、マレーシアに住む人々は争いを嫌い、異なった宗教を持つ人達に配慮しながら絶妙な距離感を保っている。そして、それでいて、お互いを尊重し合っている。これが私の目から見た彼らの多文化共生の秘訣であり、住みやすさを形成しているのかと感じた。
しかしながら、良いことばかりではない。「ワンマレーシア」多民族それぞれの多様性を尊重しながら調和を願い、国家へのロイヤルティ向上を意図した 言葉である。ナジブ首相が昨年の独立記念日に向けて発表したスローガンだそうだ。こんなスローガンがあるということは、多民族国家であるからこその困難があるということも意味している。たとえば、かつてマレー系と中国系の民族争いが起こり、それを是正する為に作られたブミプトラ政策(マレー人優遇政策) がある。この政策により、今では中国系国民の頭脳流出など新たな問題に直面しているとJETRO職員の方がおっしゃっていた。 多民族国家であることはマレーシアの大きな魅力だが、一方で多大な苦労がある。今後、日本が今以上に国際化を強いられ、海外からの移民問題に直面した際、良いことも改善すべき点もマレーシアから学べることは多い。

~多文化共生のヒント~

私たちが短期留学したIUKLは私立の大学で、マレー系の学生はもちろん、中国、アフリカ、中東、からの留学生がたくさんいた。そこで約2週間授業を受け、寮に住み、現地の学生と交流することができた。もともと、同じアジアの中でも、多民族国家であり、急発展を続けている国の同世代の学生と関われることに大変期待していた。そこで、実際に分かったことが二つある。

一つ目は、彼らが、多言語を操れるということである。例えば、私が出会った中国系のマレー人は、たいてい中国語、広東語、マレー語、英語の四言語が最低限話せた。彼らの専攻は言語学であるわけではないのにもかかわらず、日常的に多言語を習得している。多言語を操れるから良い悪いということではない。しかし、私たち日本人のように一民族から成り立っていて、日本語ができれば生活に困るようなことがない国もあれば、それがまれになる文化もある。自分たちのスタンダードが他の人のスタンダードではない。言語の観点に限らず、他国の人々と関わることが日常になっているグローバル化社会ではこの感覚を忘れてはならない。

二つ目に、国際公用語である英語をピックアップしてみると、少しくらい文法がまちがっていても、発音に訛りがあっても、自分の意志を積極的に伝えようとしている人が多い。私が出会ったマレーシア人がマレーシアの全てではない。それでも、アジアの中だけで考えても、彼らのように自分の意見を英語でうまく主張できる人が数多くいることは容易に予想できる。今後、ビジネス等の場面で、ますますつながりを持ってくる、あるいはすでに持っているのは、間違いなくアジア圏に住む彼らである。このような状況に、果たして私は対応できるか。危機感を持ったのは私だけであろうか。

~アジアの中の日本~

今回のプログラムはKL市内観光、大使館やJETRO、企業訪問、ホームステイ、現地の大学での短期講習と多彩なコンテンツで、多面的にマレーシアを知ることができた。同時に、アジアの視点から日本を客観視できる良い機会にもなった。

日本には高い技術力がある。また、地域により格差はあるにしろ、概してインフラもかなり整備されている。街なかにゴミ箱は少なく、ゴミの量が少ない。海外に出て、比較することで、日本の素晴らしさに気づかされる。また、無宗教と外国から見れば異様に思われるかもしれないが、逆にそれは多様な文化や宗教に寛容であるとも考えられる。日本にはまだ成長できる可能性がたくさんあるかもしれない。
 また、大使館の人が、日本の強み弱みについて述べる場面で、良くも悪くも国民に統一性がある、また、自国の言葉で高等教育ができる国は少ないとおっしゃっていたことが印象に残っている。

アジアと聞くと、一見中国や韓国など東アジアばかりを注目しがちだが、アジアには中東、東南アジアもあり、彼らを理解することの大切さに改めて気づかされた。日本はそのアジア全体のリーダーになり得る、あるいはなるべき存在である。マハティール元首相が、日本と韓国の技術に学び、実践することを目指した「ルック・イースト政策」がある。この政策によって、マレーシアは青年技術者や留学生を日本に送り、積極的に日本の技術を取り入れていった。マレーシアの重要産業のひとつである自動車のうち、国民車として1位2位を占めているプロトンやプルドウアが日本企業と関係していたことには驚いた。このようにマレーシア人にとって、日本は偉大な存在で、日本を自国の発展のモデルとしてくれている。一方で、日本人はマレーシアをはじめ、東南アジア、中東の国々について知識・関心が足りていない。

また、日本には閉鎖的な雰囲気が少なからずあるということも感じた。これは、海外の人がいくら日本に来たくても法制度が十分に整備されていないこと、言語の壁などが例に挙げられる。マレーシアが親日の国であるとはいえ、出会った人々は皆オープンマインドで私たちに接してくれた。日本の学生は、課題に追われていたり、アルバイトをしていたりと、もっとせかせかしていて、出会ったばかりの留学生を自らどこかへ連れて行くゆとりは、果たしてあるだろうか。彼らがとてもストレスフリーな生活を送っているように見えた。

~マレーシアの可能性~

発展途上国といっても、KLは予想以上に近代的な高層ビルが多く、同時にイスラム風のエキゾチックな建物が混在している。日本ではそう簡単に見かけないトロピカルフルーツが手ごろな値段で手に入る点が、個人的にはとても魅力的だった。また、日本ではコンビニエンスストアしか営業していないような深夜であっても、レストランや屋台は営業しており、いつでもマレーシア料理を楽しめる。視覚にも味覚にも満足のいく場所であるといえる。多民族多宗教の国家でありながら、治安が安定しているため、日本人のような一民族で国家が成り立っているような国でしか生活したことのない人にももってこいの観光地である。さらに、イスラム国家であるため、ムスリムの観光客も、食やお祈りの習慣で困らない。英語が話せれば、十分コミュニケーションができる点や、物価が安い点も見逃せない。世界中から観光客が集まるには十分すぎる理由がマレーシアにはある。

経済の観点から考えても、好条件が揃っている。地理的に、アジアのど真ん中に位置し、資源も多い。また、言語による不安も少なく、物価が安いのは言うまでもない。その上、積極的に外国資本を導入しているので、日本企業等が進出し発展が急激に進んでいる。
日本以外のアジアの地に足を踏み入れたことのない私にとって、こんなにもおもしろい国がアジアの中にあることに衝撃を受け、同時に、マレーシアをきっかけにアジアへの興味と知識が深まった。

~おわりに~

この経験はアジア・日本・私を考える最高のスタートになりました。アジア経済発展の中心、かつアジアの縮図であるマレーシアで今後二度とない、「貴重な体験と素敵な出会い」を手に入れることができ、大変光栄に思っています。私にこのようなチャンスを提供していただいた、主催のマレーシア政府観光局、協賛・後援・協力団体の皆様に心より感謝しています。

三週間共に過ごした15人の仲間へ
異なった学年、大学、専攻と全く違うバックグラウンドを持つメンバーが集まり、みんなそれぞれ個性があって、いつも刺激されていました。全員が大切な一員で、このメンバーで良かったと心から思っています。ありがとうございました。