派遣生レポート

私が学んだもの

名城大学 農学部 生物資源学科
早川 由晃

私は、名古屋市に位置する名城大学の農学部に所属しています。農学部と聞いて、今回の「Look Malaysia Program(以下、LMPと略)」のような海外活動とは無縁ではないのか、と感じる人が多いかもしれません。実際、海外活動とどのような関係があるの?と問われたことがありました。しかし、無縁であることは決してなく、学ぶべき事や自分がすべき事が溢れるほどあるので、自分が所属する農学部の人間がマレーシアで学ぶ意義をLMPでの体験を通じて述べていきたいと思います。本レポートでは、マレーシアで学んだことの中で、「マレーシアが日本と異なる点とその点から日本が学ぶべきもの」という論点に絞って話を進めていきます。

~日本がマレーシアから学ぶものとは~

マレーシアに到着してまず私の目に留まったのは、見渡す限りのオイルパームのプランテーション農園でした(写真2)。マレーシアでは、パーム油と天然ゴムの生産が非常に多く、インドネシアと合わせて世界の85%を占めるほどです。ただ、それに伴って主食となる米や小麦の国内生産が少ない状況にあります。そのため、マレーシアの食料自給率は高くはありません。しかし、実際にマレーシアに住む人が食べ物で困っているような話は聞きませんでした。なぜかというと、マレーシアはタイなどから大量の米を輸入し、不足分を補っているからです。実際、マレーシアでは米を安く購入することができます。

このように、マレーシアは食用ではない商品作物を輸出し、食用の作物を輸入していることがわかります。この面では日本と共通する部分があります。日本も果実などの商品作物を輸出しています。また、日本では、食料自給率が低いことは食料安全保障の面で危険だと叫ばれており、世界的な災害や戦争などで食料が著しく不足したとき、日本国民にどのようにして食料を確保するのかという議論が続けられています。しかし、マレーシアでは、他国と良好な関係を持っているため食料安全保障の危険性を感じさせず、国としても食料不足については心配をしていないと言っていました。食料は海外から輸入すればよいのだという考えを持っているみたいです。ここで1つ目の問いを投げかけたいと思います。

①一体、マレーシアはどのようにして他国に食料を任せられるような良好な関係を築いているのでしょうか。
 その答えは複数あると考えられますし、一面からの見解は賢明ではないのですが、自分なりに導いた答えを以下に綴っていこうと思います。私は、その答えはマレーシアが「多民族国家」であるからだと思います。

マレーシアには、マレー系以外に華人系、インド系およびバングラデシュなどの非常に多くの民族が生活しています。一歩外へ出てみると、マレーシア料理店、中華料理店さらにインド料理店を発見することができ、一つの国の中で複数の国を訪れたような感覚を味わうことができます。

ただ、この感覚を味わうなら他の多民族国家でもいいのではないか、と思う人が多いかもしれません。私も、マレーシアに到着してからしばら くはそう感じていました。そこで、2つ目の問いです。
 ②マレーシアという多民族国家は、他の多民族国家とどこが異なるのでしょうか。
数ある国の中で、マレーシアが選択された理由がなにかあるはずです。まず、ほとんどの多民族国家では、民族間で対立が起こってしまい、それが紛争にまで発展する場合があります。マレーシアには、3つの異なる宗教、3つの異なる信仰、3つの異なる人種および3つの異なる言語が存在するといわれています。これほどの価値観の異なる人々が共存していれば、いつ対立しても不思議ではありません。

しかし、マレーシアでは対立が起きていません。なぜ多数の民族が共存しているにも関わらず、マレーシアでは争いが起きないのでしょうか。それは、マレーシアに住む人々が自分と異なる価値観を持つ人に対して「寛容」であり、誰もが住みやすいように生活環境などに「配慮」がされているからだと私は思います。マレーシアにはイスラム教徒のための礼拝所であるモスク以外に、仏教徒のための寺院、ヒンズー教徒ための寺院そしてキリスト教徒のための教会が建てられていたり、トイレにはイスラム教徒のためのホースパイプやそのほかの人々のためのトイレットペーパーが用意されていたり、各宗教を信仰する人々が住みやすいように配慮がされていることを発見しました。

そして、この柔軟性は、同質の人との関わりのなかでは、なかなか身につける事が難しく、常に自分とは異なる人と接することで、自然と身につけていけるようなものだと思います。

歴史をひも解けば、マレーシアはマラッカ王国が存在した頃から、海上交易に従事し、東西交易の拠点として東洋と西洋を問わず、さまざまな文化が流入し、多種多様な人が住んできました。そして、その伝統は現在にも引き継がれています。交通の要所としての役割も、エアアジアがマレーシアに拠点を置いており、アジアの空の玄関として、さまざまな人が訪れています。さらに、多様な料理や豊かな自然にも恵まれています。それぞれの民族の料理に加えて、日本料理を含む世界各国の料理店があり、3週間の間滞在していましたが、毎日違うものを食べてもなお食べきることのできないほどです。自然についても、世界中を旅してもこの国でしかみることができないものがたくさんあります。多種多様なものがぶつかって歴史を築いてきたマレーシアに滞在することで、普段の日本では経験する事の出来ないような、刺激に満ちた日々を過ごすことができました。

ここまで他宗教徒に対して配慮が行き届いている国はほかに存在するのでしょうか。また、マレーシアに住む人々は、他民族に対して差別的なことを口にせず、どの民族に対しても平等に接しています。むしろ、民族など気にせずに誰とでも親しい関係になろうとしているように見え、非常にフレンドリーだなと感じました(写真8)。私たちが訪問したIUKL(Infrastructure University Kuala Lumpur)で出会った人たちも親日的な人ばかりでした。

さらに、2009年4月に任命されたマレーシアの現在の首相であるナジブ首相は、「1 Malaysia」というスローガンを掲げました。これはマレーシアに住む多民族それぞれがお互いを尊重することで、調和を保つために謳われたスローガンです。

これらのために、マレーシアでは他民族間の対立が起きないように配慮されているのだと感じたと同時に、これらが2つ目の問いの答えだと感じました。

ここで、ここまでの流れを整理してみます。まず、食料を海外に不安なく頼るのに必要な国際関係を築くために必要なものはなにか、という問いでした。その答えは多民族国家であることでしたが、ただの多民族国家ではなく、他民族に対して寛容であり、かつ他民族に対して配慮がされていることが価値観の異なる人々同士の争いを防ぐということです。現在、アジアではASEAN、TPP、EPA及びFTAなどの協定により国同士での交流が著しく「アジア大交流時代」にあるといえます。日本もTPP加盟に向けて交渉を続けているのはホットな話題ですが、当然日本もアジアの国々と様々な面で関わってこれからを生きていくことになるでしょう。その際、日本もアジアの一員として、どのようにアジアの国々と付き合っていくかを考えなければなりません。これからアジアと日本の交流が一層深くなっていき、様々なバックグラウンドを持つ人々が来日するようになれば、我々は自分たちとは異なる価値観を持つ人々に対して「寛容」でなければならず、彼らに対して「配慮」しなければなりません。そうでなければ、マレーシアのように、多民族が共存しつつ平和な状態を維持するのは困難でしょう。

ここまでの話で日本とマレーシアとの相違点が見えてきたと思います。日本は単一民族国家であるのに対して、マレーシアは多民族国家であることです。
 ここで3つ目の問です。
③日本および日本人が自分たちと異なる価値観を持つ人々と交流していくにはなにが必要なのでしょうか。
 その答えは、「マレーシアを見習うこと」ではないかと思います。マレーシアから、他民族に寛容になることと他民族に配慮すること学び、それを実現するために、私たちが何をすべきかを考え、行動すべきだと思います。例えば、イスラム教徒が不自由なく過ごせるようにハラルマークを普及させるなど、海外の食文化に対応できる状態にすることなどが挙げられます。そうしないと外国人が来日したとしても生活しづらく、祖国に帰ってしまう人が多くなってしまうと思います。私たちがすべきことというのは山ほどありあますが、日本人一人一人にもなにをすべきかを考えて欲しいとも感じています。それを考えてもらうために行動しなければならないのが、私も含めた今回のLMP 2013に参加したメンバーであり、より多くの人々にどのようにしてマレーシアについて知ってもらうか考えていかなければならないという宿命があるのだと思います。LMPはマレーシアに滞在した3週間で終了なのではなく、この先ずっと続くプログラムなのです。出来るだけ多くの人にマレーシアで学んだ事を伝えたいと思っています。

~農学部がマレーシアから学ぶものとは~

アジアは現在、「大交流時代」にあると述べました。マレーシアに滞在している間、抹茶やわさびなど日本の食品やりんごや梨などの果物をいくつか見つけました。日本の果物は、見た目や味ともに非常に品質が良く、価値のある商品作物として知られています。ただ、お金になる商品作物は、米などの生きていく為に必須な食物に比べ重要度が低いので、食料自給率の低い日本では主食となる米などの生産を増やそうとしています。マレーシアも食料自給率が高くなく、オイルパームという商品作物を多く栽培していることから、先述の通り農業面からは日本と似ている部分があります。では現在の日本は、マレーシアのように安心して海外に食料を頼ることができるのでしょうか。あいにく、この答えは「No」なのですが、この答えを「Yes」に変えるにはどうすれば良いのでしょうか。その答えもまた、マレーシアのように他民族を「寛容」に、「配慮」しつつ受け入れることで、良好な国際関係を築けばよいのではないかと私は思います。このように、農学部が学ぶ食料問題というのは農業だけでなく、国際関係にも関与しており、その解決策は農業面だけでなく、国際政策面からも議論できるのです。我々、農学部で学ぶ人間は、農業面以外の視野からも農業問題に取り組めることがあることを知る必要があります。その視野を広めるには、他学部について学び、他学部と交流し、他学部の考えを受け入れることが大切です。これはまるで、日本がマレーシアの良さを見習う姿のようですね。