派遣生レポート

マレーシアから学ぶ

山梨県立大学 国際政策学部 国際コミュニケーション学科
三善 啓司

~はじめに~

私とマレーシアの出合いは、オーストラリアへ留学していた時のホストファミリーがマレーシア出身であったというのが最初である。彼らはよくマレーシアの話をしてくれた。その時には特に気にかけることもなかったが、大学の教授の紹介でルックマレーシアプログラムを知ったとき、同じアジアの国として、そして彼らが語ってくれたマレーシアという国がどういう国なのか見てみたいと思うようになったのだ。

今回プログラムに参加するに際し、留学の意義を考えてみた。一つは、抽象的なイメージを具体的な事実として認識すること。あくまでホストファミリーから聞いたことは、私の中ではイメージとして残るだけであったが、それだけでマレーシアはこういった国であるという判断をすることはできない。主観的にマレーシアという国を見たかったのが一つ。そしてもう一つは、日本を客観的な視点から捉えたかったこと。日本は、はたしてどういう国なのか。外からはどのような目で見られているのかといったことを考えたいと思った。こういった見方をすることで、双方向のベクトルで両国を考えることができ、的確に比較することも可能になる。この2点をふまえて今回マレーシア留学する目的を見つけた。その目的は、日本はマレーシアから何を学ぶことができるのか。そして、マレーシアから学んだことをどのように生かしていくのかということを考えることである。

ルックマレーシアプログラムを通じて痛感したことは、私たちはもっとアジアに目を向けるべきであるということだ。「グローバル化」を唱えていながら、実は自分も含めて欧米志向の人が多いのではないか。欧米中心に進んでいるグローバル化に乗り遅れないようにしようと考えていた。そこでアジアに目を向けることがなった自分自身を反省するとともに、後悔する気持ちを強く持った。まずマレーシアは、アジアの中心であるということ。それは、地理的に見てもアジアの中心であるとともに、発展国の仲間入りを目指し、今まさに発展している国ということからも中心と言える。

今後はアジアを引っ張って行く国がマレーシアという国である。そして、その可能性を十分に秘めている。それに気づき、肌で感じるまさにこのことこそが、ルックマレーシアプログラムの意義なのではないかと思う。そして発展国の一国として、マレーシアと日本のつながりはよりいっそう重要なものとなっていく。学ぶべきことを見つけ、アジアの一員として先頭に立っていく存在になる必要がある。まさに、ルックイースト政策、ルックマレーシアプログラムの持つ可能性はここにあると私は思った。

~観光立国マレーシアから学べること~

つまり日本がマレーシアから学べることは何か。その一つとして挙げられるのが「観光」の分野である。私は大学で、インバウンド観光について学んでいる。これからの日本にとってインバウンド観光は非常に重要な産業になることは間違いない。外国人観光客を日本に誘致するノウハウを学ぶ必要がある。そこでマレーシアは観光分野、特にインバウンド観光においてかなり優れているというのは有名である。日本人渡航者数だけを見ても、マレーシアはアジアの中でもトップクラスであり、数字にも表れている。

現地に行き実際に感じたことは、観光客を積極的に受け入れようとする姿勢だ。例えば市内でショッピングをしていても、どこからか必ず声がかけられる。そして、その商品の説明を熱く語りかけてくる。また日本人とわかれば、覚えたばかりであろう日本語を無理にでも話そうとし、何とか気に留めよう、呼び止めようとする人たちが目立つ。気の優しい日本人はすぐに話に聞き入ってしまう。もちろん私自身もそうであった。また、わざと値段表示を隠して、値段交渉に持ち込もうとする人もいる。日本人はこのようにされることを嫌う人は多いが、こういった手法が正しいかどうかということではなく、彼らの熱意が伝わってくるし、積極的な姿勢がうかがえる。  2つ目の理由は、多文化、多民族を受け入れる体制、環境が整っているという点である。インバウンドとは、外国人観光客が国内に来ること。つまり、様々な人種、民族、文化を持つ人々がやって来るということである。そこではやはり、他の異なる文化、民族を受け入れることができるということがとても重要である。

ここで一つ紹介しておきたいのが、“1マレーシア”といわれる政策である。多民族国家であるマレーシアでは多文化、多宗教が共存する。そうした中でそれぞれが融和を目指すというスローガン。

ここで3つのキーワードがある。understand・accept・respectである。互いの文化を理解し、それを受け入れる。かつ、互いの文化を尊重するといった意味である。この3点を理解しているからこそ多民族国家として成功していると思う。

 

街中でも“1マレーシア”を象徴しているところを見ることができた。「ハラルマーク」がその一つである。豚肉など宗教上食べることが禁止されている食材が含まれていない食品にこのマークが印されている。また街中にはハラルフードのレストランもあり多宗教が存在する国として配慮が見られる。また街のあちこちにモスクがあり礼拝を行うのに支障がない。

もちろんこのような習慣をそれぞれの民族が受け入れている。むしろマレーシアという国は、多文化・多宗教国家であることを強みにしているのではないかと思わせる。さらに多民族国家を一つにまとめ上げる“1マレーシア”政策も強みの一つである。もちろん、需要の少ない日本が同じことを行うのは難しいことである。しかし、こういった多民族に配慮する、そしてそれを受け入れる配慮といったものは参考にできるのではないだろうか。

~ホームステイ体験~

他の人種、集団を受け入れるという点で、ホスピタリティの考えが浸透しているのもマレーシアである。3日間という短い期間ではあったが、現地の家庭でホームステイを体験することができた。これこそが、私がマレーシアでの一番の思い出だ。寛容性、ホスピタリティの心を持ってもてなしてくれたホストの人々。ここでも他を受け入れるといった姿勢が見られた。私のホストファミリーは私を快く家族の一員として迎え入れてくれたのである。

ホストファミリーはパパ以外の家族は英語での会話であった。私の拙い英語でも真剣に耳を傾け、会話をしようとしてくれたのは強く印象に残っている。また、滞在中、ホストファミリーの親戚の結婚式に参加する機会があった。そこはまさに田舎の町で、マレー語しか通じないような世界であった。しかしそこでも、日本人として行った私を親戚家族がそろってむかえてくれた。

言語も通じない、かつ赤の他人である私を家族の一員であるかのように受け入れてくれた。そして、がんばって日本語を話そうとしてくれた。さらに、互いにつたない英語で会話をした。ただの観光客としてではなく、家族の一人として私のことを理解してくれようとした家族のホスピタリティに感動した。文化の違う人間を受け入れようとする姿勢が随所に見られた。このホスピタリティの考えこそマレーシアが外国人を積極的に受け入れようとする姿勢であり、こういった環境を生み出していると思った。

多文化が共存するといった経験はやはり日本ではあまり体験することができない。しかし、おもてなしの文化は日本でもあるしマレーシアから見習うべき点も多い。そしてホスピタリティの考えこそ日本も学んでいく必要がある。

~課題~

ここまでは、この留学を通してマレーシアの優れている点を書いてきた。しかし、悪い点、欠けている点を見ることも留学するうえで必要なことである。正直マレーシアという国は想像をはるかに超え、私自身もかなり圧倒されたのは事実。しかし、細かい所に目を配るとやはり悪い点も見えてしまう。例えば、市内における環境。クアラルンプール市内はKLタワーやツインタワーのような高層ビルが多く発展した町である。しかし、その中でも大量のごみが目立ち、交通状況は最悪である。町のあちこちにごみが散乱し、ごみ箱からもあふれるほど。はっきり言ってしまえば汚い町である。また、公共交通機関も整備されていないため、交通渋滞は日常茶飯事。車の排気ガスによる汚染や騒音などの問題が目立っていた。このような問題点から日本を客観的に見ると、やはり整備が進んでいて住みやすいと感じる。マレーシアも日本の失敗から学ぶべきである。先進国入りをめざし開発が進む陰で起きている問題に目を配ってほしい。両国の発展のためにも必要不可欠なことである。

~最後に~

このようなプログラムに参加することができ嬉しく思う。この海外派遣はここで終わりではない。今後私は、マレーシアへ行った当事者として、一人のリピーターとなり、再度マレーシアへ行きたいと思っている。そして、多くの若者、また若者に限らず多くの人たちにマレーシアの魅力を伝え、情報発信をしていくつもりである。近い将来、インバウンド観光を通じて、両国の地域振興へ貢献できる人材として活躍していきたい。
 このようなすばらしいチャンスを与えてくれた方、ありがとうございます。またホストファミリーや現地で支えてくれた方を含め、現地で出会った方々にも感謝したい。そして一緒に行った15人の学生たちからは常に刺激を受けてきた。おかげでとても密度の濃い時間を過ごすことができた。