私とマレーシア

山浦 隼人(東京工業大学)

私とマレーシア。「マレーシア」で、我々は3週間滞在して、様々な経験をしました。そのすべてを取り上げることなど到底できません。当然その一部を取り上げることとなります。どれを選ぶかは「私」次第です。私は根っからの理系で、専攻分野もマレーシアとは直接の関係はなく、アジアの歴史にも疎く、国際関係の内容について学んだ経験がほとんどありません。そんな「私」が「マレーシア」に訪れて感じ、考えたこと3つほど挙げたいと思います。

Panasonic kids schoolエコ活動の一環としてマレーシアの子供たちに環境の大切さと、どう行動すればよいかを教えた際に、子供たちが何をするかを書いたもの。中には「ご飯を食べない」といったちょっとおかしなものもあったが、環境を意識している世代が成長して将来活躍してくれることを願いたい。

 まず一つ目として、マレーシアのエコ意識についてです。マレーシアで、いや、もっと前の日本からマレーシアに向かう際の機内の中からです。冷房が強すぎて非常に寒い。日本では東日本大震災の影響で電力不足の中、節電が叫ばれ、冷房は28度設定となったりして暑いくらいです。その環境に慣れた我々日本人には冷房16度設定は寒すぎます。マレーシア国内でも多くの場所の冷房が16度設定となっていました。「マレーシアでは寒くすることがおもてなしだ」という話さえ聞きましたがやりすぎなのではないでしょうか。日本とは違いマレーシアは石油と天然ガスをほとんど自国生産で賄っていますが、環境問題の観点からもエネルギーを無駄に消費することは止めるべきです。

 そこで重要となっているのが今のマレーシアのエコに対する意識です。我々が何人かの学生に対してアンケートをとった結果によると、エコ活動は企業が行うという認識が強く、個人個人の意識レベルはまだ低いことが窺えました。まずは今の日本が持っているエコ意識をマレーシアの人とも共有すべきです。我々はPanasonicに訪れた際に該社が現地で行っているエコ活動について話を伺い、大変感銘を受けました。しかし、一企業の力だけでは十分ではありません。この活動が他の企業にも浸透し、さらに我々の一人ひとりが東日本大震災で学んだエコ意識をマレーシア、そして世界中の人々に発信しなければなりません。「私」は専門分野を生かして太陽光発電の研究をし、マレーシアの、いや世界の発電方法を太陽光発電にするのが夢です。

Sunway Uiversity学食掲示物は英語、学生同士の会話は英語やマレー語。はたまた電話で中国語を話している学生も。とにかく多くの言語がつかわれている。

 二つ目として、英語教育について感じたことを取り上げてみます。我々がクアラルンプールでショッピングや食事をする際に、当たり前のように英語が通じます。さらに、我々が日本人だと分かると、片言ではあるが日本語を話してくれるような人もいました。また、JICAを訪問した際にJICAによる、日本やその他の国の大学への留学生育成するプログラムを行っている大学を視察しました。マレー人が多かったこの大学では約1年だけ日本語を学習するだけで、それ以降の他の授業が日本語で行われていました。我々が視察した際は夏期の特別プログラム期間であり、日本人の大学教授を招いて普通に日本語で授業を行っていました。さらに、Sunway Universityを訪問した際には中華系の学生と交流したのですが、彼らはたいていマレー語、英語、中国語の3ヶ国語は自由に話せるのです。驚くことに友人同士の会話でも英語を使ったりしていて、日本では考えられないことに驚きました。さらに、多くの学生がこれに加えて韓国語や日本語などを学んでいます。マレーシアは多民族国家であり、複数の民族が共存していることからか、公用語のマレー語の他に英語、中国語などが普通に飛び交います。マレーシアの教育ではマレー語、英語は必修で多くの人が英語を話せます。更に中華系は中国語も話すことができるので、少なくとも三ヶ国語を自由に扱うことができる人が多いのです。

セランゴール州立大学JICAのプロジェクトで日本などへの留学生増加のために作られた大学。1年だけ日本語を教えた後に、数学などの授業が日本語で行われている。授業はまるで日本の授業を聞いているようだった。

 ここで、日本の言語事情を振り返ってみると、ほとんどの国民が日本語しか話せません。けれど、大学生であれば大抵の人は英語を6年以上勉強してきているはずです。近年、文部科学省が新指導要領として、小学校第5、6学年から外国語として英語を取り入れるようですが、それで根本的な解決になるのでしょうか? 一体マレーシアの人々と何が違うのでしょうか? その最も大きな要因はハングリー精神からの学習意欲なのではないでしょうか。少し前の日本はアジアの中で高い技術を持ち、ずば抜けた先進国でした。日本国内だけでも仕事は十分あり、生きていく上で外国語を学習する必要性が大きくはありませんでした。そして、多くの学生が「英語は嫌い」ということで逃げてしまい、真剣に学習しませんでした。そのために中途半端な英語力で海外の人と英語で話せません。一方マレーシアでは、仕事を得るためには多くの言語を習得することが必須です。教育においてもすべての授業を英語で行う場合が多く、英語ができなければならないという危機感があります。そんな状況に置かれているから、彼らは必死に勉強して話せるようになっているのでしょう。

 では、日本は一体どうすればいいのでしょうか。マレーシアのように授業を英語でやればよいのでしょうか? 日本の現状を考えたらその答えはNoでしょう。私は今までアルバイトなどで小、中、高校生に指導していた経験があります。今の日本の学生は英語だけで繰り広げられる授業についていけないでしょう。さらに、学習意欲も少なく、授業に必死でついていこうという前に、理解することをあきらめてしまうでしょう。今後の日本教育において、まずは生徒たちに日本だけでは生きていけない今後の日本情勢をきちんと理解させ、言語面において甘やかすことなく、英語を知らなければ生きていけないといったような危機感を与えることが大切なのではないかと思います。非常に不安に思わせるようなことを述べましたが、まずは英語を、わざわざ他人が日本語に翻訳してあげるということをなくすところから始めれば良いのです。TVで外国人の発言を日本語字幕でなく、英語字幕で流せばよいのではないでしょうか。

 そう、日本での生活する上で今までは英語を知る必要がないのです。そのことが英語習得の機会を奪っているのです。国際社会において英語は非常に重要で、日本人はもはや日本の視野しか持っていない人は生きていけないでしょう。「日本は国際化が必要だ」と長年叫び続けられていますが、未だに大きな変化がありません。手遅れになる前に日本人は危機感を感じ、国際社会で生きていけるスキルを身につけなければなりません。

18歳の友人と彼は日本語を学習中で、日本の文化に非常に興味を持っている。右は彼の友人。バックは彼の家族でやっているお店。

 最後にマレーシア人のホスピタリティーに関して述べたいと思います。3週間の間にフリータイムが3日間あり、私はそのうち2日間を現地で友達になった学生に案内をしてもらいました。1人目は私よりも4つも年下であるにもかかわらず、露店の飲み物や食べ物をごちそうしてくれました。また、彼の父親がお店を持っており、私1人しかいなかったのに今回のLMPメンバー10人全員分のお土産を頂きました。2人目は私より1つ年上の方で、我々のホテルまでわざわざ車で迎えに来てくれました。さらに、映画やランチなどの費用を負担してくれました。

23歳の友人と彼はまさにルックイーストで、韓国と日本に興味がある。来年韓国に留学するつもりで、時間があったら日本にも遊びに来てくれる。その時に日本を案内してあげるつもりだ。

驚くことに、彼は一人で、LMPの日本人メンバーが4人なのです。彼は4人分の費用を負担してくれたのです。私も海外から日本に来ている人に日本を案内した経験があり、自分なりにおもてなしをしたつもりでいましたが、彼らのホスピタリティーとは比べ物にならないと思いました。私は自らの時間を割いただけで十分もてなしたつもりでしたが、彼らはマレーシアが自分のホームで我々はゲストであるからと、精一杯のおもてなしをしてくれました。私はそれを素直に受け入れました。そして、彼らが日本に来た際には全力で恩を返したいと思っています。

ホストファミリー子供たちはお年頃の女の子。みんなシャイで初めはどうなるかと思ったけど、徐々に打ち解けた。花火とか恋愛話とかして盛り上がった。

 また、ホームステイ先では、断食期間で現地の方は昼ご飯を食べられないにもかかわらず我々のご飯を作っていただき、我々が食べている間、一緒に席についてくださいました。また、大変個人的なことですが、私は乾燥肌で彼らはそんな私の肌を心配して薬をくれました。この行動には本当に驚き、温かさを感じました。土産屋などでも、外国人である我々に店の方は現地住民と同じように対応していて、特別扱いされている感じがなくて気分が良かったです。

 日本は日本でおもてなしの精神が優れているのは間違いありません。ただ、それは本心からなのでしょうか? いわゆる「マニュアル化された接客」というものでしょう。そして、そのマニュアルの中にたいていの場合は外国人への対応は書かれていないでしょう。日本にある一般の店では、日本語が通じないお客は招かざれる客であるのが本音なのかもしれません。マレーシアは日本の約4倍の観光客を誘致しています。日本人は外国人に対して極端に言うと「観光客」として見切るか「異国人」としての対応しかできてないのではないでしょうか。

 その点、マレーシアでは国籍や宗教関係なく、アットホームに接してくれます。今後の国際社会に対応するためにも日本は内輪だけで盛り上がるのではなく、もっと開放的にならなければなりません。そのためにはお互いの交流の機会を増やしていくことが大切です。そう、今回我々の参加したルックマレーシアプログラムもその一つです。今後も学生間での交流プログラムを行ったり、多くの留学生を受け入れたりしていくことが遠いようで実は近道なのかもしれません。そのためにも海外の留学生をきちんと受け入れる体制を整えなければなりません。今回学んだことの例でいえば、イスラム系の学生が日本でも安心して食事ができるように、ハラルマーク(豚肉など、イスラム教徒が食することを禁じられている食材が使われておらず、食べるのを許可された食品につけられる)の導入が必要なのではないでしょうか。

 「私とマレーシア」ということで、私が感じたことを3つ取り上げました。1つ目はエコ意識に対することで、マレーシアが見習わなければならないこと。そして、2つ目、3つ目はそれぞれ英語学習、ホスピタリティーの精神についてで、日本が学ばなければならないこと。日本とマレーシアの関係で大切なのは、お互いがお互いの良さを認め、それを相互利益へとつなげることなのではないでしょうか。マレーシアがルックイースト政策で日本を見習ってきたように、我々日本も「ルックマレーシア」の言葉通り、マレーシアを見習って意識的に行動へと移さなければならないのです。

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