私とマレーシア

LMPでの三週間

幅 翔一(拓殖大学)

「はじめに」

都内のホテルでのプレス発表会

 日本は東日本大震災により、莫大な被害を受けました。そのような中で、様々な国々が日本の復興を願い、支援してくださいました。それがきっかけで、他国との繋がりの重要性を改めて認知させられました。特に、マレーシア政府は、日本が必要とする支援をあらゆる方法で実施すべきであるとして、さまざまな角度から人道的支援に取り組んでいく姿勢を示しました。マレーシア政府観光局の広報部長のモハマッド・ラジプ・ハッサン氏と広告部長のアブドゥル・カニ・ダウド氏は、「東日本大震災から復興をめざす日本人に、以前のようにマレーシアを訪問してほしい。ルックマレーシアプログラムはそのリカバリープランの1つ」と述べ、私たち大学生にこのプログラムを提供してくださいました。

 本プログラムでは、2011年8月16日から9月6日までマレーシアに滞在しました。滞在中はホームステイや企業訪問、現地校での授業、様々な行事などに参加し、実際のマレーシアを体験しました。その中で特に印象に残っていることは、現地の社会人や学生、カンポンに住む人々などの様々な人とふれあい、交流したことです。そして、そこから多くのことを学びました。その中で、東日本大震災から復興をめざすとともに、日本とマレーシアを含むアジアが明るい関係を築いていく上で必要となりうるキーワードが考え出されました。それが何であったのかをこのエッセイで伝えたいと思います。

「職場環境 -差別撤廃による人種統合 integration-」

KLにあるショッピングモールの一角

 マレーシアにおける職場では、「インテグレーション integration:差別撤廃による人種統合」をキーワードにしており、様々な民族の人々が共に助け合い、協力して働いていました。それは、JICAのオフィスやPanasonicの工場などを見学した際に感じられました。そこでは、多民族に対応した労働システムが取り入れられていました。例えば、ムスリムが行う一日五回の礼拝に応じた労働時間が設定されていました。また、様々な言語書かれた看板や注意書きなどが掲示されていました。それは、それぞれの言語を認め合い、それぞれの文化を尊重しているように感じられました。

 また、フードコートや飲食店ではムスリムは豚肉を食べないなどといった宗教的制限に配慮した料理が提供されており、他の宗教の人々であっても受け入れる体制が整えられていました。それらは、日本ではほとんど見られない職場環境であり、インテグレーション integrationという意識があってこそ、成り立つ労働環境だと感じられました。そして、異文化を理解しようという姿勢を示し、工夫を凝らせば他の民族であっても共に働くことはできるのだということを学びました。

「学生間交流 -寛容性 tolerance-」

 本プログラムではセランゴール州立大学、Sunway Universityの二つの大学を訪れました。セランゴール州立大学では、日本語を学んでいる学生が多くいてあり、彼らと交流できる時間がありました。そこで、私は驚嘆させられました。なぜなら、私たちと会話をする上でほとんどの学生が積極的かつ流暢な日本語でコミュニケーションを図ったからです。「なぜそれほどに日本語でのコミュニケーションが上手なのか」と尋ねたところ、「コミュニケーションは大切だから、日ごろから積極的に会話しているのだ」という答えが返ってきました。「なぜコミュニケーションは大切だと考えるのか」と尋ねたところ、「異文化を理解するには、コミュニケーションが重要であるから」という答えが返ってきました。日本の学生は、必要性が無ければ自分の気の合う友人としか接しない傾向があると私は考えます。だから、その点でマレーシアの学生は他人に対して非常にフランクに接することができ、かつ相手のことを理解し、認めようという姿勢が感じられました。それは、マレーシア人が持つ寛容性だと感じました。

Sunway Universityでの国際交流の様子

 Sunway Universityでは、異民族と上手に関わっていくという点で、コミュニケーションを重要視しており、それに則った授業を受けました。例えば、日本の学生がマレー語をマレーシアの学生から教わり、逆に日本の学生が日本語をマレーシア学生に教え、自己紹介をするという授業がありました。そこでも、マレーシアの学生が持つ他人に対してのフランクさを感じ、楽しくかつ円滑にコミュニケーションを図ることができました。また、次の授業では「タワーコンテスト」というものが行われました。それは、各5人1組のグループに分かれ、紙とセロハンテープを使い、どのグループが制限時間内に最も丈夫で背の高いタワーを作れるかを競うものだでした。そこでは、他のグループより優れたタワーを作るということが課題であったため、各人が自身のアイディアを主張し、グループとして共有することが重要でした。はじめ、私は言語の壁があるためにアイディアの共有は困難だと考えました。しかし、その考えは誤りでした。彼らは私たちの言葉にきちんと耳を傾けてくれ、相手ときちんと対話しようという姿勢でした。さらに、伝わらなくても笑顔で接してくれました。結果、円滑に物事を進めることができました。そのような体験から、マレー人の持つ寛容性を感じました。

「ホームステイ -歓待 hospitality-」

 ホームステイでは、歓待を強く感じられました。カンポンでは、家族同士のつながりが強く、お互いに支えあって生活していました。私たちがあまり体験したことのない、いわゆる拡大家族の社会がそこにはありました。その中で生活していく上で、様々な壁が生じました。例えば、宗教の違いという観点からは、カンポンの人々はラマダン(断食月)中であったため、私たちとの生活リズムにずれが生じました。しかし、彼らは自分たちの生活リズムを相手に押し付けるのではなく、自らが相手の生活リズムに合わせる、ということをしていました。

 また、マレー語が主言語となっているため、私たちとのコミュニケーションはほぼノンバーバルで行われました。そういった中でも、異文化の人々と接していくための工夫がなされました。例えば、食事や入浴、就寝時などはジェスチャーで伝えてくれました。そのような体験から、ジェスチャーやアイコンタクトなどのノンバーバルコミュニケーションの重要さを認識させられました。また、言葉が通じなくても、人はコミュニケーションをとることのできる能力を持っているということも認識させられました。そして、相手の文化を深く理解するためにはコミュニケーションが重要であると感じました。

ホームステイ先の家族と撮った一枚

 カンポンでのホームステイでは言葉が通じなくても、思いやりを感じました。彼らはホームステイの受け入れを生活の一部として行っており、「無理のないもてなし」が心地よく、まるで家族の一員になったように感じられました。「ナチュラル natural」、つまり自然体であることや「ウィリング willing」、つまり自宅にゲストをお迎えするような気持ちで喜んでサービスを考えることなどがマレーシアのホスピタリティの特徴だと感じました。日本では、時間に追われ時間に縛られるあまりにサービスをマニュアルで管理しています。その点で、今回のホームステイで受けたもてなしは新鮮であり、そこに日本にはないマレーシア独特のホスピタリティを感じました。

「まとめ」

 「寛容性 tolerance」は、必要以上に他人に干渉せず、自分は自分、相手は相手として認め合うことで、共生していこうと姿勢がみられました。自分と他人との間に生じる見えない壁を上手く作ることで、互いの心の距離をバランスよくとっていました。また、良い意味での適当さがこの寛容性を生んでいるように思われました。

 「歓待 hospitality」は、歴史的背景から多民族国家であるがゆえに、日常生活を送る上で常に異文化が存在していたため、他の文化を受け入れ、もてなすという姿勢が自然に培われてきました。それ故に、私たち日本人に対しても、白い目で見ることはなく、自然に接してくれました。それこそが、マレーシアのホスピタリティであるように思われました。

 「差別撤廃による人種統合 integration」は、「One Malaysia」という言葉を掲げていることからも読み取れるように、他民族であっても、同じマレーの地で生きていく者として、共に良い社会・国家を形成していこうという姿勢が感じられました。現に、マレーシアのマハティール首相は「各々の民族が、少しずつ不満を分けあっている方が、良い社会を形成する」と述べたとされます。

「提言」

 国際化が進む中で、今後においてアジアが一つになっていくことは必然的であり、日本もその波に乗っていく必要があるということはいわれ続けています。しかし、依然として日本人にはまだそのような意識が低く、遅れています。日本がアジアの一員になっていく上で、マレーシアがポテンシャルとして持っている、「寛容性 tolerance」「歓待 hospitality」「差別撤廃による人種統合 integration」の三つの要素は重要なキーワードになるのではないでしょうか。日本人がそのポテンシャルを身につけることで、異文化への理解が進み、異民族との「繋がり」が生まれます。そして、その繋がりを維持し、大切にすべきです。なぜなら、「つなぐ」ことで「支えあう」ことの実態が発見され、そこに日本の国際化への光がみえるからです。まずは人と人とをつなぎ、やがてそのつながりの輪が拡大し、地域と地域をつなぎ、国と国をつなぐことを実現させます。この「つなぐ」行為を重ねあうことによって、「共生」をはかります。そして、支えあうことを継続し、「共生」への思いが強まってこそ、人間の安全保障や平和構築などが可能となり、より良い国際化社会が形成されます。

「おわりに」

 本プログラムを通じて、より一層マレーシアについて知り、学びたくなりました。そして、このプログラムでの経験が契機となり、新たな夢ができました。それは日本とマレーシアを含むアジアの明るい社会を形成することです。そのためにも、日々の学業を大切にし、精進していきたいと思います。また、本プロジェクトで形成された絆を大切にし、それらの人々とともにより良い日本を含むアジアの社会を築くことに貢献したいです。目指すは「One for Asia, Asia for One」です。

 本プロジェクトに参加するにあたって、本当に多くの方々が支援してくださいました。そのおかげで、私の人生の中で今までに経験したことのない有意義な時間を過ごすことができました。心より感謝を申し上げます。

 Terima kasih banyak.

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