私とマレーシア
細谷 和弘(東海大学)
私は三週間マレーシアに滞在し、多民族・多宗教の文化的背景が生み出す、独特のホスピタリティや寛容性を感じ、日本もさらに世界に視野を広げる必要があると感じました。 大使館、JETRO、JICA、Panasonic等の訪問では、マレーシアの文化やその企業がどういったことをしているか、多民族・多宗教ならではの魅力と、それに応じた職場環境が整っていることを学べました。
Sunway University、セランゴール州立大学、ホームステイでは、実際に現地の学生や農村で暮らす人々と交流をし、学生たちの勉学・コミュニケーションに対する積極性、マレーシア独特のホスピタリティや寛容性などを直に感じることができました。
また、観光面では、マレーシアを訪問する外国人旅行者数が2000万人であり、日本を遥かに上回っています。日本は観光立国推進基本計画の下、外国人訪日旅行者数を1000万人にしようと取り組んできました。しかし、今年は東日本大震災もあり、日本にとっても大変な年となってしまいました。観光立国を掲げていた矢先の出来事であったため、観光面でも厳しい局面にさらされてしまいました。そこで、私は観光的視点からもマレーシアから何か学べたらと思い三週間旅をしました。それら、実際に感じたことを詳しく述べていきたいと思います。
■ 8/17~23
最初の一週間は、主に日本大使館、JETRO、JICA、国際交流基金、Panasonicの訪問、マラッカ歴史地区見学、また、マレーシアにきて見るモノ全てが新鮮に見えていた時期でもありました。
● マレーシアの自動車社会
マレーシアは外資獲得のため自動車産業を育成してきました。インフラ整備も進み、都市開発も進んできたといいます。また、自動車産業のイメージ付けのためにF1レーサーなども取り入れてきたそうです。他にも、バスに乗るのは下流のイメージがあるらしく、そのため自家用車を持っている人がほとんど。
そういったことから、マレーシアでは歩行者優先ではなく、車優先社会です。実際、私がクアラルンプールの街中を歩いて思ったのは、歩行者用の信号機の青の時間が15~20秒ほどでとても短い、車道に比べて歩道がボコボコしている、などの点でした。その点でも、実際に車優先だと感じることが多々ありました。
● 多民族・多宗教の文化的背景
話をうかがって、マレーシアには多様な民族・宗教が共存していて、それがマレーシアを訪れる外国人旅行者数に影響しているのだろうと感じました。たとえば、
・街中の看板は多言語で記されている。
・ハラル食品(イスラム教徒が食べることが可能な食品)が浸透している。
・モスクの脇に中国寺院やインド寺院などがある。
など。これらは、街中を歩いている時やバスでの移動中に、よく見かけたことです。他にも、宗教の異なる墓地が道路挟んで向かい側にあるなど、「多民族・多宗教の共生」が見て取れました。
● ボルネオ島
マレーシアは大雑把に言うとマレー半島とボルネオ島から構成されています。今回、我々が滞在したのはマレー半島であって、ボルネオ島にはサバ州・サラワク州があり、海を隔てて東側に位置します。
マレー半島とボルネオ島では環境がまったく異なるようで、特にサラワク州あたりは家族をとても大事にするのだとか。しかし、クアラルンプールの方(マレー半島)では、近所の付き合いが疎遠で隣の住民を知らないこともあるようです。マレーシアはルックイースト政策を掲げ日本の発展に学び、現在、急成長を遂げていますが、日本化してきて同様の問題が出てくるのではないか、という懸念を抱きました。
● ホームステイの観光資源化!?
この話も私には興味深かったことの1つ。ホームステイはその国の文化や生活習慣を直に体験し、感じることができます。日本の都会では住宅事情が貧しく、ホームステイが難しい現状ですが、地方の田舎などでは都会よりは余地があります。その点、地方でホームステイをして、その地域を体験できるツアーを開発すれば、もっと日本を北から南まで知ってもらうことができるでしょう。確かに、私が出会ったマレーシアの学生やタクシーの運転手などは、日本は東京しか知らない、という人が多くいました。
ホームステイを観光資源として活用することは、東京以外の都道府県の知名度向上につながり、日本への海外旅行者の増加も見込めるので、とても有効だと思います。
● 社会・文化を背景としたマレーシアの職場環境
マレーシアの人は勤労一辺倒ではなく、家族との生活も大切にします。そのため、残業などはほとんどしないといい、日本とはかなり違う環境にあります。Panasonicでは多岐にわたる民族の人々が働いていて、職場の案内板は多くの言語で記載されていると同時に、従業員の宗教にも配慮し、お祈りの時間に合わせて休憩が取れるようになっています。
上述のようにマレーシアでは日本のように勤労一辺倒ではなく、各民族の宗教、社会、文化的な風習に配慮しており、各人が就労はもとより生活し易い環境が整っています。その点、マレーシアが世界の中で『住みたい国一位』に連続5年輝いていることも理解できます。
■ 8/24~9/5
Sunway University訪問から始まる二週間は、ホームステイ、自由行動、タマン・ネガラ(国立自然公園)訪問、などがありました。この期間は「交流」がメインであったので、ここに、初めの一週間の間に訪れた、セランゴール州立大学のことも加えて述べさせていただきます。
● 学生たちの勉学や、コミュニケーションに対する「積極性」
セランゴール州立大学では、私たちはいくつかの教室を見学したのですが、数学や地学など理数系科目の授業を日本人の先生が日本語で行っていました。地学のクラスで使用していた資料集は、私が高校の頃に使っていたモノと同じで、授業内容までも日本と変わらないレベルで行われていました。生徒たちは課された問題を周りの友達と話し合って解き、先生に対する質問が頻繁に行われていました。全体的に感じたのは、学生たちの勉強に対する意欲が強いということです。
Sunway Universityでは、コミュニケーションを重視した授業をマレーシアの学生と共に受けました。たとえば、
・マレーシアの学生は日本語で自己紹介をして、私たちはマレー語で自己紹介をする。
・B5のペラペラの紙を数枚とテープを使用して、各グループが協力してタワーを作り、てっぺんに500mlの水を置いて、一番高いグループが勝利する。
といった授業で、自己紹介では互いの言語をレクチャーしつつ進めていきました。タワー作りでは、互いに創造力を出し合い、協力し完成させました。これらの活動を通して感じたのは、彼らの目の前にあるやるべきことに一生懸命に取り組む姿勢や、私たちとの会話に積極的な姿でした。ましてや、私のつたない英語に、真剣に耳を傾けてくれたことは嬉しかったです。
● マレーシア特有のホスピタリティや寛容性
私たちは、自由行動の日にSunway Universityで知り合った学生と時間を共にしましたが、彼らの寛大なもてなしに私たちはしばしば恐縮するばかりでした。彼らとは近郊にある巨大ショッピングモールなどに行ったのですが、自家用車で私たちが泊まっているホテルまで迎えに来てくれました。ショッピングモールでは、映画を見たり、ランチ、買い物などをしました。また、マレーシアに来た思い出にと、お土産を買ってくれました。彼らは、私たちが同じ場所を何度も回ったり、お手洗いなどで長く待たせてしまっても、何一つ嫌な顔をせずに案内してくれました。私たちは本当に楽しかったし、感謝をしています。この自由行動を通して、ホスピタリティや寛容性を感じるとともに、楽しい思い出となりました。
次に、カンポン(農村)でのホームステイ。10名いて、2名ずつ各家にホームステイしたのですが、私たちがお世話になったホストファミリーの方々はほぼ英語が通じず、マレー語オンリーの3泊4日となりました。それでも、たとえ言葉が通じずとも現地の文化を伝達しようとしたり、バイクや車で「興味深いところ」に連れてくれたり、彼等の思いやりを感じることができました。彼らは、ホームステイの受け入れを生活の一部としていて、「無理のない」おもてなしが私たちにとっては心地よかったです。まるで、家族になったように感じられました。その「無理の無さ」はマレーシアのおもてなしの特徴だと思います。また、マレー語のみのコミュニケーションのおかげで現地の言葉を少し覚えることもできました。その点、今回のカンポンで受けたおもてなしは新鮮でした。
ホスピタリティや寛容性は飲食店や小売店などの街中でも感じることがありました。たとえば、
・街中を歩いていても、日本人だといって特別な視線を感じることはない。
・基本的には、飲食店などは、食べ終わった食器は置いたままにして良い。
以上は、文化的背景から自然となっていることなのだろうと感じました。
■ 最後に
三週間、マレーシアに滞在してみて、居心地がよかったというのが率直な感想です。その居心地の良さは、マレーシア独特のホスピタリティや寛容性がもたらすものではないかと思われます。その根っこには多民族・多宗教と言った社会・文化的背景があるのではと考えられます。これらのことは現地の方との交流の中でも実際に感じられたモノで、日本には無い雰囲気でした。
一般的に日本人は他のアジア諸国の人々との連帯感に乏しいように感じられます。さらには、それは世界全体にも及びます。携帯にいたっても、ガラパゴス化という独自の機能を有するものがありますが、それでは世界で通用しません。また、隣の住人を知らないことは普通にあります。つまり、閉鎖的です。日本人はもっとグローバルな視点に立つべきで、それは、ハラル食品の普及や英語の普及などでもあります。特に、ハラル食品の普及はイスラム圏の国からの旅行者を誘致する上では重要です。どの国の人でも滞在しやすい環境づくりが大切なのかなと、マレーシアへ来て感じました。
長いようで短かった三週間。本当にたくさんの出会いや経験をさせてもらいました。そして、この10名での旅は本当に楽しく、とても貴重な経験となりました。