第3回若者トラベル研究会マレーシア海外研修リポート

多国籍おもてなし国家マレーシア

沖縄ツーリスト株式会社
本店営業部 玉城 今

2020年に行われる東京オリンピックをきっかけに、日本の社会・文化そして観光に大きな注目が集まってきております。そのために多様な要望や期待に応える新しい観光コンテンツ開発の必要性が常日頃から唱えられております。今回私がこのプログラムに参加を希望した理由は、そのような機会にどう対応すべきかについて、マレーシアが非常に学びの多い国であると期待しているからです。マレーシアは、シンガポールをはじめとする近隣諸国との関係を良好に保つために異国文化を受け入れる姿勢、似た国同士間での自国の差別化、独自のブランドの構築の手腕に長けていると思われます。観光をツールに日本を元気にさせるヒントをマレーシアで見つけるべく、今回の研修プログラムに臨みました。
 7月6日~7月11日のマレーシア研修にて訪問した、各施設のレポートと感想をつづります。

7月7日(火)

University Sains Malaysia

マレーシア観光産業についてご教授いただいた。ビジットマレーシアイヤーという国策を契機に、国民の観光産業の重要性を喚起させたという事例が印象的であった。インバウンド需要を肌で国民が感じとり、もともと兼ね備えていたホスピタリティーを活かす機会を仕事として成り立たせることは、大いにやりがいを得たであろう。日本でもおもてなしの精神をいかんなく発揮し、盛り上がるインバウンド社会を好機としてとらえるべきだと再認識した。一方で多国籍なマレーシア特有の課題として、外国人労働力の増加によるローカル市民との働き口の分け合いを挙げており、それによるマレーシアらしさといったホスピタリティーの維持をどうすべくかの対応についても考えるべき点であった。外国人との協同のためにも、国際人になるべく幅広い視野と思考を得るための意識改革が必要である。

7月8日(水)

Penang Global Tourism & Penang Centre of Education Tourism

食事会にて多文化フードを体験。ニョニャ料理をいただきました。好き嫌いも分かれる?

ペナンはマレーシアの中でも最も有名なリゾートエリアのひとつであり、同時に伝統を重んじ、多文化・多宗教・多国籍な生活も体験できる、トレンドと伝統が共存する場所である。そんな刺激的な街は、五感をフル回転させ多種多様性を楽しむことが出来る絶好の島だ。ペナンで観光業を学ぶということは、机上の学習だけでなく、教室以外での実践的な学習メニューを多く取り揃えていることが大きな魅力である。6校のカレッジのプレゼンでは、ペナンが学びの場としていかに適しているかを説いていただいた。

KDU College Penang

プレゼンに参加したカレッジの内のひとつKDUは、座学とホテル業が連携した職業実践訓練を併用した専門学校である。グローバル人材の育成にも力を入れており、多様なニーズがあるなかで、観光/旅行業に従事するうえでも柔軟な対応が必要であることを教えている。マニュアル化した対応だけでなく、人と向き合うことを念頭に、相手がHappyならリピーターにもなるし、Unhappyにしてしまったならもう戻ってこないかもしれない。不評はネガティブな流れをつくるが、好評は必ずポジティブな流れを生む。観光とは人と人との交流であり、難しく考えず、旅行者と市民がお互いほんの少しの寛容性を持つことできっとうまくいく。そんな学びを教室内外で得られる場所がKDUである。ペナンの多文化的でアコモデイティング(寛容で親切な)な雰囲気だからこそ学べる良さが印象的だった。

7月9日(木)

Halal Industry Development Corporation

マレーシアの人口約6割がムスリムといわれます。ムスリムの方々といっても、すべての世代にまたがり、それぞれのマーケットに対してアプローチしています。

マレーシアに訪れたこの時期は、ちょうどイスラム教徒の断食の期間中であった。ここHDCは、イスラム教徒の人々の為のハラル食を提供する機関であり、その宗教文化を尊重していることが前提である。我々も持っていた水を鞄にしまい訪問に備えていたが、そんな身構えた我々をよそに、ペットボトルとキャンディバーが卓上に予め用意された会議室へ案内へしていただいた。こんな場面でもマレーシア国民のアコモデイティングな一面に触れ、恐縮した。HDCでは2年ほど前から日本からの視察団を多く受け入れているそうで、日本でビザが緩和されたことに対し、人口約20億にせまるムスリムは大きなマーケットになることを改めて指摘された。ムスリムの習慣はなぜ、何のためにあるのかを生産者、受入側は理解することが重要だという。これはムスリムの事例に限らず、インバウンドの拡大や、超高齢化社会を迎える日本で共通する、寛容的で相互理解に努める大事な精神であると考えさせられた。

Apple Vacations & Conventions Sdn. Bhd

ムスリムのマーケットにあわせた店舗設計。旅行代理店の新たなあり方ではないでしょうか。

日本でインバウンド旅客が増加するのは、アジア各地の送客元があるからである。今年で19年目を迎える、マレーシアからのアウトバウンドをメインとする旅行代理店にて日本送客のポイントをご教授していただいた。日本の温泉地や食事をテレビやドラマで見て、ロケ地で映った白川郷や北海道に行きたい、というような需要につながっている。主に経済的に豊かな華僑が顧客に多いとのこと。日本製の商品購買にも大きな貢献をしている巨大なマーケットだ。セールス展開としては社名を売ることもそうだが、コース内容がやはり大きな決め手になることから、良いホテルや食事を提供することに注力し、華僑の目につくメディアに広告を打つなどをしているとのこと。混載団体のツアーでの言語対応はマジョリティー言語を用いて対応している。日本商品の売れ行きが好調な一方、日本に送客する中で感じる問題点は、日本の受け入れ態勢が不十分であることだという。ハード面としてはホテルが取りづらいということ、ソフト面では言語対応の不十分さなどが挙げられた。宿が取れなければ、人気の観光地以外にも送客することや、旅行商品のバリエーションを増やすということも含めて、地方への送客につなげたいという想いがある。日本全国各地からもトップセールスで来店があるそうだ。日本の新たな人気観光地の需要喚起をしていただいている一方で、残念ながら、日本の情報は日本語ばかりで、情報が少ないことにはがゆさを抱いているそうだ。訪日人口の増加に伴う多国籍環境への対応を強いられることを念頭に、早急な情報の多言語化や様々なニーズに応える姿勢が求められている。アップルバケーションズでは、店内でイスラム教徒向けのカウンターを設置するなど、マーケットを明確に分類するなどして実施している。

Embassy of Japan in Kuala Lumpur

マレーシアでは、日本が旅行先として人気No.1というほど親日家が多く、日本食の店も増えてきているという。アップルバケーションズが訪日団の手配旅行社最大手として送客しているが、先ほどもあったホテルがとれないという問題や、北海道へのチャーター便の手配等に関しても日本側の空港のキャパがなく着陸できない、というようなハード面での対応策が必要事項として挙がっている。
 また、2010年時点では個人と団体旅行者の比率が5割ずつであったのに対し、2014年現在では団体3割、個人7割というレポートがあるように、個人手配での訪日が増え、旅行社での手配よりもOTAにシフトする傾向が見られた。
 日本からの送客では修学旅行については増加傾向にあり、多国籍国家特有の文化体験、英語教育の入門としての目的が挙げられているとのこと。修学旅行などの若い時期の海外経験は国際的感覚を磨くことや、その後の相互交流にもつながる契機になるため、インバウンド需要の高まる日本において国際人を育むうえでは、今後も強化していくべき分野であると再確認した。

Tour Operators (JTB, HIS, SMI, JTA & J-Horizons)

OTAでの予約・手配が増加する中における旅行代理店の役割は何か、というテーマの中で、「安心と安全」というキーワードがあがった。FITの増加の一方で、「安全と安心」は旅行社の大きな役割であり、強いアピールポイントにつながるであろう。外務省からの危険情報だけではない、現地の情報を顧客にしっかりと正確な内容を伝えることも大事な役割である。日本人ガイドの保護にも努め、ガイド付きでしか案内し得ないマレーシアの観光地や秘境にご案内する旅行商品の造成など、日本からのマレーシア送客増加の兆しが見えるような、活発な意見が飛び交った会合であった。

7月10日(金)

Convention & Exhibition Bureau

MICE先進地であるマレーシアの特徴を伺う中で印象的であったのは、箱ものとしてのMICE会場だけでなく、これまで我々も研修中に体験した多文化、多宗教にも対応する多様な食の提供、歴史散策とリゾート型自然体験の共存、ショッピングや都市観光など、マレーシア全域でマレーシアの良さを堪能できるプログラムである。隣国の競合もあるなかで、マレーシアはその寛容性で多様なニーズに応えるコンテンツをいかんなくMICE産業に発揮している点が、自国の良さを掘り起こす点で日本でも見習うべきポイントであろう。

Prince Court Medical Centre

すべて個室の病室はホテルのようにきれいで快適な空間。概観や内装も病院とは思えないような空間です。

建物に入るや否やホテルのようなきれいな施設に、ここが病院であることを忘れるほどである。この施設ではすべて個室を設け、患者ひとりひとりがリラックスできる環境づくりがなされている。日本人向けコンテンツとして、日本人の外部メディカルコンシェルジュを招き人間ドックサービスを設けている。マレーシア駐在の日本人がほとんどの利用者であり、まだ旅行社としての取り扱いは少ないというが、日本の高齢化社会を念頭に、セカンドライフを検討するマーケット向けとしてロングステイ商品に組み込み、ドックを受ける等の期待ができそうである。

Mitsui Outlet Park

空港とショッピングを連動させた事例。日本でも拡大するインバウンドマーケットのショッピングツーリズムにおいても出発ぎりぎりまでショッピングを楽しんでもらえる仕組みが重要です。

首都マレーシアのハブ空港であるクアラルンプール国際空港から車で5分といった立地を生かした、空港⇔アウトレット間の無料シャトルバス運行、フライトインフォの電光掲示、自動チェックイン機の導入、無料の荷物の一時預かりなど特徴的なサービスが設けられていた。エアロポリス計画として今後さらに空港周辺地域を発展させていくということで、今後の展開に期待が膨らみます。

まとめ

マレーシア研修でのキーワードは間違いなくアコモデイティング、寛容性である。多国籍文化が共存する社会の中で、国策としてのビジットマレーシアイヤーをはじめとして、国民に観光産業の重要性を意識喚起させることに成功した事例は大きな参考事例である。持ち前のホスピタリティーを活かしたおもてなしの性格が、隣接する競合多国との差別化に反映されているのも特徴的である。ひとりひとりがほんの少しの寛容性を持つこと。観光立国として発展するうえで、設備投資、多様なニーズに応える国際感覚等課題は尽きないが、まずは日本人として孤立せず、理解に努める寛容な心を市民レベルで持つことがはじめの大きな一歩であると確信した。

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