第3回若者トラベル研究会マレーシア海外研修リポート

今後の旅行業界へのヒントを模索したマレーシア視察研修

名鉄観光サービス株式会社
玉川 世那

はじめに

旅行業は今後50年で無くなる業界とも言われております。
その原因として、LCC(ローコストキャリア)や、OTA(オンライントラベルエージェント)の台頭があげられます。このような、低廉且つエージェントが仲介せずに多くの人々が国内海外問わず旅行に行ける便利な時代になった一方、旅行会社、旅行業界は今後どのような役割を果たしていくのかという課題があることも事実です。
今後の課題への解決策を模索するため、様々な旅行会社の方々が集まり実施された、マレーシアの視察研修に参加しました。そこで肌で感じたものをこのレポートに書かせていただきます。

7月7日 ペナン世界遺産ツアー

ジョージタウン散策中の「ストリートアート」

ペナン島に到着し、最初のプログラムがペナン島ツアー。特に印象に残ったのは、2008年のマラッカと共に、マレーシア初の世界遺産に登録されたジョージタウン巡りです。
 街の中の至る所に「ストリートアート」を見ることが出来、「歴史の街」という一面だけでなく、「アートの街」という一面も垣間見ることが出来ました。

7月7日 Universiti Sains Malaysia 訪問

昼食後から本格的な視察研修の開始です。ここでは日本の立教大学でも講師をされているBadaruddin Mohamed教授からマレーシアの旅行業界の発展の道筋、現状の課題、業界の未来、インバウンド、アウトバウンド関係の話を聞くことが出来ました。
 特に「ホームステイ」を推奨しており、訪れる人(インバウンド)を暖かく迎え入れるという国民性に加えて、居心地良く過ごせるよう、ホストファミリーに対するトレーニングまで行われているとのこと。この点は日本へのインバウンドを今後さらに増加させていくのに必要であると感じ、また日本の「おもてなし」のもう一段階上を今後意識する必要があると思いました。

7月8日 Penang Global Tourism &Penang Centre of Education Tourism

視察研修2日目はペナン観光局の方々とペナンの教育旅行に関わる方、ユニーバーシティやカレッジの方々との意見交換会です。どの方々も自己紹介と共に熱い意見を交わしていましたが、私は付いていくので精一杯・・・。
多くの人々を引き付ける歴史的、文化的側面を持つマラッカやジョージタウン、美しいビーチリゾート・・・「見て・聞いて・食する」人々を魅了する、安全・安心で本当に魅力的な「ペナンブランド」の確立を目指し、国外訪問キャンペーンや、マスメディアを利用した戦略、プロモーション等を実施しているとのこと。
 また近隣諸国(ASEAN諸国など)の学生を留学生として積極的に受け入れており、その体験談を聞いた学生がさらに留学生として訪れることが良いサイクルを生み出しているとのことでした。これは、日本でも目指すべき点であると私は感じています。

7月8日 KDU College Penang 訪問

午後のプログラムはKDU College Penangの訪問です。このカレッジは座学とホテルを連携した職業実践訓練(インターン)を併用している専門学校ですが、旅行業への就職は20%程度であるとのことです。
 多くがIT化されているこの時代に、「人と話す」、「人と人とが顔を合わす」ことによって、マニュアルではなく、様々な状況に応じた対応ができることが強みであるという。この点に関しては、営業職をしている自分としてもとても嬉しく思いました。
 またIT化の故、良い体験はリピーターを生み出すが、ネガティな印象を持つと、多くの人に拡散してしまう意見もあるとのこと。
 マレーシアから見た日本の印象も聞くことが出来ました。日本は気候(四季)、食事、インフラ、文化、安全の面はとても優れている一方、外国語、異なる習慣などに関してはまだまだ途上段階であると見られているようです。マレーシアでも中国やアラブ諸国の人々との摩擦は確かにあるが、しかしどの国、どの文化の人々も受け入れる気持ちが何より重要であるとの話を受け、今後日本が目指すべきものは、日本式の「おもてなし」ではなく、「世界的なおもてなし」なのではないかと感じました。

7月9日 Halal Industry Development Corporation 訪問

ハラル製品の展示

この日、午前はHalal Industry Development Corporationを訪問しました。正直私はハラールというものを詳しく分かっていませんでした。ただ単に特定の食材等が含まれていなければいい、その程度の知識しか持ち合わせていませんでした。
 しかし実際話を伺っていると全く違う。含まれている食材は勿論のこと、調味料や洗顔料までにハラールマークが付いている。一番驚愕したのは、含まれているものだけが問題なのではなく、製造工程も関係しているということでした。また、ハラール商品の輸出も増加はしているが、食料品業界以外にはハラール商品の需要があることを知られていないのが現状であるとのことでしたが、そこには多くの可能性があるのではないかと感じました。
 今の日本の観光業においても、ハラールへの関心は決して高くないだろう。しかし今や、マレーシアを始めインドネシア等から、日本は遠い旅先ではなくなっている。また、東京オリンピックの開催で訪日旅行の需要がより一層高まる中、日本も早急に受け入れ体制を整えるべき時ではないだろうか。ムスリムのお祈り、ハラール・・・日本人にとって、最初は理解が難しいことかもしれない。ただこのような他文化を理解することにより、観光業を始め、多くの産業に多大な影響を及ぼすはずであると考えます。

7月9日 マレーシアの旅行会社Apple Vacation 訪問

アップルバケーション社のエントランス

この日は、日本への総客数が一番多い旅行会社「Apple Vacation」を訪問し、多くの事を聞くことが出来ました。印象に残ったのは、自国では出来ず、日本で出来る事が売れているということでした。北海道の雪などが良い例で、この点は訪日旅行を伸ばす要素となると私は確信しています。またマスメディアが協力し、様々な他文化を発信していくことにより、より多くの人が海外に興味を持ち、アウトバウンドを促進することになると感じました。

7月9日 クアラルンプール日本大使館訪問

日本大使館では、マレーシアに滞在する日本人の立場からのお話を伺って来ました。
 日本から見たアウトバウンドの増加の要因としては、日本人向けの食事サービスの増加が挙げられる。これが上手くいき、多方面からの集客にもつながっているのではないかとのこと。
 日本から見たインバウンドにおいては、ANAが直行便を飛ばしたことや、ビザの緩和等が増加の要因になっている。しかし一方で、日本の空港のキャパシティが限界である点はネガティブの要素である。マレーシア側は日本への便を増やしたいが、難しいのが現状であり、受け入れ側の日本としても今後の大きな課題であることは間違いなさそうであると考えます。
 マレーシアにおける教育旅行の面についても、お話を聞くことが出来ました。マレーシアは多国籍国家であり、英語の入門としては最適な国であるとのことで、日本からのマレーシア修学旅行の件数は増加傾向にあるそうです。
 一方、マレーシアから日本への旅行という面では、ビザの緩和、円安、LCCだけでなく、日本留学経験者が与える影響が一番大きいとのこと。その影響を受け、日本への渡航者が増加し、更にその影響を他の人々が受けていくという、素晴らしいサイクルを生み出している。これがマレーシアの教育旅行の現状であり、この点は日本の教育旅行が必ず見習うべき点であると思います。

7月10日 ツアーオペレーターの方との意見交換会

アップルバケーション社内

この意見交換会では現地オペレーターの方にマレーシアの現状を伺いました。
 皆様が口を揃えて仰っていたのは、「マレーシアは今厳しい状況」であるということ。観光素材も多くはなく、航空座席の確保の問題や、加えてイスラム国の問題もあり、大打撃を受けているとのことでした。
 また印象に残ったのは「変わったものを提供」したり、「自分では無理」というデスティネーションを商品化したりすることが旅行会社の生きていく道なのでは、ということです。単に世界遺産等を見に行くだけの時代からは卒業し、旅行会社だからこそ実現可能な旅行を。その為に我々旅行会社が存在し、FITでは得られない「安心・安全」を提供する役割を求められているのではないかと感じました。

7月10日 Malaysia Convention &Exhibition Bureau 訪問

私は、恥ずかしながらMICE市場でマレーシアがトップ5に入っている事実を知りませんでした。
 マレーシアMICEの売りは会議会場となるだけでなく、ショッピング、ゴルフ、リゾート等、別要素で参加者が楽しむことが出来る点であるとのこと。今後マレーシアMICEが目指しているところは、アジアトップのデスティネーション。そのライバルはシンガポ―ル等の東南アジアで、残念ながら日本はほとんど意識されていない。今後、日本はMICE開催都市だけでなく、幅広く日本の魅力を発信していくことが必要不可欠であると思いました。

7月10日 Prince Court Medical Centre 訪問

マレーシアではメディカルツーリズムにどのように取り組んでいるのか興味を持ち、お話を伺いました。実際は旅行会社を介しての取り扱いはなかなか難しい模様で、理由としては旅行会社が医療サービス機関に対して説明が上手に出来ないという点にあります。日本におけるメディカルツーリズムも現状停滞で、旅行会社が輸送付きのPET検診に参入しているというのが現状とのこと。旅行会社にとって、少しニッチな市場なのかもしれない。

三井アウトレットパーク館内

7月10日 三井アウトレットパーク視察

マレーシア最後の訪問先として、三井アウトレットパークを視察しました。空港敷地内にあるということで自動チェックイン機の設置や、アウトレットから空港への無料送迎も実施しています。
 また日本文化を体験出来る「ジャパンアベニュー」ゾーンや、ハラール対応の飲食店、お祈りスペース等も設置されています。

約1週間のマレーシア現地視察研修を終えて・・・

最初はとても不安な気持ちでスタートしたマレーシア現地視察研修。終わってみると、普段する事の出来ない経験を沢山することが出来た、実り多い研修をさせていただきました。
この貴重な経験のおかげで、今後の日本の旅行業界の在り方へのヒントを、様々な角度から見ることが出来たと感じております。
この経験から学んだものを、今後の旅行業界において活かす策を模索し、これからの旅行業界に少しでも貢献していければと思っております。

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