第3回若者トラベル研究会マレーシア海外研修リポート

多民族国家マレーシアが観光立国として成功した理由と日本が学ぶべきことについて

株式会社JTBコーポレートセールス
グローバルビジネス推進課 平松 育枝

私は、アジアの観光立国として成功しているマレーシアに、今後の日本旅行業界を押し上げるヒントを求め今回の研修に臨みました。
 実際に自分の目で見たマレーシアは、1981年に第4代首相マハティール・ビン・モハマドが提唱した「LOOK EAST POLICY」時代を感じさせないほどの大都会でした。特に「観光」という観点でみると、日本がマレーシアから学ぶべき点が多々あると感じました。

ショッピング風景

「異文化理解」の重要性について

その最たるものが「異文化理解」です。人口2995万人のマレーシアは、その歴史的な背景から、マレー人(65%)、華人(24%)、インド人(8%)、その他(3%)からなる多民族国家です。(出所:地球の歩き方2015~2016)

研修の前半で訪れたペナン州は、まさにその象徴でした。  小さな街中には、多国籍のレストランはもちろんのこと、信仰の中心であるイスラム教のモスク、儒教の寺院、ヒンドユー教の寺院、さらにはキリスト教の教会が隣接しています。

ローカルファッション

 そしてユネスコに登録をされているHeritage Areaには、平和の象徴として”Street of Harmony”と名付けられたストリート があります。1969年5月13日に起こったマレー人と華人との間に起きた所得格差による大規模衝突は、忘れることが出来ない事実です。しかしながら、今回の研修を通じてお会いした現地の人々に「自分と異なる宗教や国籍の友人はいますか?」と伺うと、皆が「はい」と答えました。

さて、どのようにしてマレーシアではこのような異文化への理解を浸透させたのでしょうか?その大きな役割を担い続けているのが「教育」です。
 今回の研修ではUniversity Sains Malasiaの観光学部で教鞭をお取りになられているMr.Badaruddinから、マレーシアが世界第三位の観光立国となるまでの歴史と成功の鍵、そして現在マレーシアが抱える課題について伺いました。
 その中で注目されるべき事として、マレーシア政府による大きな政策展開が挙げられました。天然資源に恵まれ、スズやゴム、パーム油など、第一次産品の輸出に依存した農業国だったマレーシアが、1970年代から今日まで多くの外資の製造業を受け入れ、工業国として成功し、そして現在では、2020年までに先進国入りを目指すという「ビジョン2020」を打ち出し、目覚ましい発展を遂げています。

空港内多言語表示

 このような大胆かつ強固な政府の姿勢と税制優遇制度が相乗効果を生み、多くの外資企業を呼び込むことに成功し、そこに纏わる「人」の交流を促進し、生活基盤が急速に整えられました。これに伴い、イギリス・アメリカ・オーストラリア、カナダなどの各国から多くの大学の分校が開設され、様々な教育の選択が可能となりました。もちろん中等教育まで無料の公立の学校を選択することもできますし、私立の学校に通うことも可能です。また、カレッジによっては、最初の1年間は海外の教育機関より安価なマレーシアで勉強し、その後2年目から海外の提携校に編入できるという制度も充実しています。 このような充実した選択可能な教育制度が人格形成期に準備されていることで、豊かな異文化理解と対応力を身につけた人材を多く抱え、国内の経済を活性化させるとともに、その人材が海外でグローバル人材として多岐に渡り活躍、多くの外資をも獲得しています。

商業施設内多言語表示

 一方で、2020年を目途に先進国入りをするために、労働集約型から知識集約型へ転換を目指しているマレーシアとしては、優秀な人材の流出が一つの課題となっていますが、これは進化を続ける国マレーシアにとって、ポジティブな課題であると感じました。
 顧みて、日本はどうでしょうか。グローバル人材の必要性が常に問われる中、文部科学省が中心となり「スーパーグローバルハイスクール」の設置など、政策面では多くの措置が取られている一方で、20代の若者の旅行離れをはじめ、出国者数の減少が続いています。
研修期間中何度もこの課題が机上のテーマとなりました。議論を繰り返す中で、「海外=外の世界」という定義を覆し、「海外=身近な新しい世界」とするという発想の転換の必要性を感じました。そして、その役割を担うのが「旅行」だと思います。例えば、修学旅行、ホームステイ、インターンシップなどは、思い出を作るだけでなく、新たな友人と出会い、異文化を体験し受け入れることで新たな発見をもたらし、グローバル人材への一歩へと繋がると考えます。

HDC One Touch Point

そして、2020年のオリンピックのホスト国となった日本には、現在多くの訪日旅行客が訪れています。私たちの日本人の象徴として使われている「お・も・て・な・し」とは何でしょうか?その答えもまた「異文化理解」ではないでしょうか。島国で育った私たちにとって日本語以外を話す人は「外人」(外の人)として長い時間定義づけされて続けてきましたが、インターネットやインフラが充実したことで、ボーダレスな時代へと突入しました。
 このような時代において、言語は異文化理解を促進するための一歩と言えるでしょう。日本では対応がまだまだ遅れていますが、自動翻訳機などのテクノロジーを活用することで補える手段はあるように思います。大事なことは、コミュニケーションを取ろうとする姿勢(=異文化理解)なのです。そして基礎となる異文化理解に柔軟性と寛容性をプラスすることで、より日本人らしい「おもてなし」が出来るのではないかと考えます。

海外から求められる「柔軟性」と「寛容性」とは

Halal認証

訪日旅行客に対する様々な「おもてなし」の一つとして、世界無形遺産に登録された「和食」があります。「和食」は誰が食べてもヘルシーで美味しいお料理です。
 しかし、例えばマレーシア、インドネシア、中東と巨大な市場が広がっているムスリム圏からの旅行者は、豚肉・アルコールを召し上がらないほか、「HALAL」(*イスラム法において合法なもの)認証をされた食材を召し上がります。また、ユダヤ教の方はカシュルートという食事規定に基づき一般的に良いとされている「KOSHER」認証をされた食材を召し上がります。また中華系の方は冷たい水を好みません。世界の「食」における「異文化」に対して、「和食」にはどのような対応が求められるでしょうか?

マレー料理

 そのヒントは、研修でおとずれたHalal Industry Development CorporationのSenior Manager、Mr.Romziの講演にありました。それは「Halal Foodはイスラム教徒の方だけのためのものではなく、誰が食べても良いものである」という考え方です。もちろん、経済的な観点からも巨大なムスリム市場を見据えているという背景がありますが、その柔軟性と寛容性こそが非常に重要だと感じました。

実は私自身、マレーシアに渡航し現地の人々の声を聞くまでは、「真の和食」を知ってもらいたいと強く考えていました。しかし大事なことは、食べる人の要望にできる範囲で誠実に応える努力をする、ということではないかと思うようになりました。

イフタールブッフェ

 海外から日本を見た印象を聞くと、「High Technology」「日本食」「安全・安心」「勤勉」そして「誠実」という言葉が聞かれます。その「誠実性」が、海外の人を日本に引き付ける魅力の一つであると思います。

日本は長年においてこの精神を守ることで、「日本ブランド」の価値を向上させてきました。今後は、この「日本ブランド」に柔軟性と寛容性を加えることで、より幅広いニーズに対応した「おもてなし」が提供できるのではないかと考えます。



まとめ

そして私たち旅行会社が果たすべき役割とは、「旅」を通じて日本と世界との相互理解を促進させ、グローバル人材を育て、「日本ブランド」を世界へ発信していくことだと考えます。このような貴重な「気づき」を与えていいただきました、マレーシア政府観光局と日本旅行業協会の方々、そして携わっていただいた皆様に心より感謝申し上げます。

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