第3回若者トラベル研究会マレーシア海外研修リポート

マレーシアに見る日本の新しい旅行のカタチ

株式会社PTS
松住 健一郎

「旅行会社」は今後どうあるべきなのか。オンライントラベルエージェント(OTA)の台頭やローコストキャリア(LCC)の進出で、旅行に行くことが簡便になる一方で、旅行会社離れが進む昨今において、旅行会社として何ができるのかのヒントを得るべく、マレーシアでの実地視察を行いました。
 2015年7月6日~11日の期間中に、ペナンとクアラルンプールで、観光に携わる様々な機関・企業を訪問し、「マレーシアの今」を垣間見ることができました。まずは、その紹介をいたします。

ペナンのジョージタウン巡り

ペナン島の観光拠点で、マレーシア第二の都市ジョージタウン。その中で印象的だったのが、2008年に歴史的な街並みが世界遺産に登録された後に見せてきた「アートの街」としての顔です。ペナンの今昔を垣間見ることができるこれらのアートを見ることで、世界遺産地区が現代もなお「生きている」と感じることができました。

ジョージタウンの街並み
ジョージタウンのストリート
アート②
ジョージタウンのストリート
アート①

Universiti Sains Malaysia訪問

  マレーシアサインズ大学で教授の話

いよいよ視察本番。Universiti Sains Malaysiaでマレーシアにおける観光業の成り立ちや現状の課題について伺いました。マレーシアの立地や保有する観光資源を基礎に、インバウンドとアウトバウンドの双方が伸張していく中での取り組みを知ることができ、大変勉強になりました。
 特に、地域社会の主体的な参加を前提として推奨されたホームステイは、旅行者と地域住民の交流が促され、双方にとって次へのモチベーションが生まれる舞台として、旅行商品に取り入れる価値があると感じました。

Penang Global Tourism & Penang Centre of Education Tourism訪問

日が変わり、ペナンの観光局とEducation Tourismに関わるカレッジとの意見交換会。世界遺産地区を中心とした歴史的側面、都市生活、ビーチリゾート、自然、そして食べ物が近くに集まったペナンにいかに人が集まってくるか。それゆえ教育の場としていかに適しているか、熱のこもった各カレッジの自己紹介が印象的でした。
 近隣のアジア諸国を中心に積極的に海外からの留学生を招き入れ、それに刺激された学生が海外に進出していく構図が、活発な旅行人口につながっているようでした。
ひとはなぜ旅行をするのか。旅行先で学べることが多く、それを教育の場で促していくことの有用性を認識することができました。

KDU College訪問

KDU College

これまでの学術的な見地での話に刺激されて、大学で観光を学んでいた頃の感覚がよみがえったところで、KDU Collegeでさらに気づきを得ることができました。
その中で最も印象に残っている言葉が“Service Personal Value”です。旅行者が実際に求めているものを提供することが満足につながり、波及効果を生むという考え方です。
 しかし、受け入れ側が、押し付けることなく、旅行者のニーズ(価値観)をしっかりと受け止めてサービスをするのは言うほど簡単なことではありません。せっかく来てくれた旅行者に見せたいもの、食べてもらいたいもの、聞いてほしい話があり、それを「正しく」理解してもらうことで再訪者をもたらすと考えがちだからです。実際旅行者は自分(または自国)にないものを求めて見知らぬ地を訪れることが多い。それを尊重し、寛容にもてなすことで、年々増え続ける外国人旅行者が気持ち良く日本で旅行できることでしょう。

Halal Industry Development Corporation訪問

ハラルについてのブローシャーの展示

「ハラル」にこれまであまり馴染みがありませんでしたが、Halal Industry Development Corporationへの訪問は、それについてきちんと知る良い機会となりました。
 “Food is a key to choose”と担当の方がおっしゃっていたように、日常・非日常を問わず、食事の重要性はとても高い。だからこそ、正しい理解が必要であります。ただ、それは必ずしも形やルールに従順である必要はなく、本質を見極めてできることをするだけでも良いという話もありました。
ここでもマレーシア人の寛容な国民性を見た気がします。


Apple Vacations & Conventions Sdn. Bhd.訪問

今回の視察でもっとも興味があったのがマレーシアの旅行会社。マレーシアの旅行マーケットの特徴や他社との差別化を図るためにどんな手を打っているのか。

アップルバケーション社のエントランス
日本に持ち帰れそうなアイデアがあれば・・・、そんな気持ちで訪ねたのが、大手の旅行会社Apple Vacations & Conventions Sdn. Bhd.です。
 まずは気になる店構え。なんと本社ビルのメインフロアが日本の居酒屋を模した作りになっているのです!聞けば、日本という方面に強いということをアピールするのと、リラックスして仕事ができるような職場つくりを意識してこのようにされたとのこと。なるほど、納得。
 この会社では、直販主体の製販一体のスタイルをとっていて、添乗員同行型の商品を主力としています。お客様からの支持は高く、安心してご利用いただけているようにご質問やご要望にすぐに応えられる体制を作っているとのことでした。
アップルバケーション社の社内
最近はTVドラマのロケ地めぐりの需要が多いらしく、時には直行便のない北海道をチャーター便で結び、独自の商品開発に大変力を入れているようです。それゆえ多少旅行代金が高くても良く売れるらしく、2014年は日本に約1万人を送客されたとか。
マレーシアからのアウトバウンドは、LCCの浸透もあって、約7割が個人手配旅行という中で、ツアー主体で売上を確保できているのは、マーケットのニーズを的確にとらえ、個人ではなかなか難しい旅程の計画や手配を行っているところにあるようです。そこに旅行会社の存在意義のひとつを見ることができました。

ツアーオペレーター

現地にいるからこそ分かる、日本人から見たマレーシアの観光業について、話を聞くことが出来ました。
 興味深かったのは、誰もがマレーシアには観光素材が少ないと口を揃えながらも、マレーシアにしかない新たな観光素材の発掘や、単なる観光ではなく教育旅行や体験型旅行、ロングステイなど、テーマを持った旅行の企画提案に取り組んでいるというところでした。
 新たな旅行需要を創出するには、地域の歴史や伝統、文化などのそこにしかない独自の観光資源を活かし、普及に努めていくことが重要と感じました。
 また、個人旅行化が進む中での旅行会社の存在意義として、個人では出来ない体験や個人では行けない場所を企画商品化するなど、旅行者への正確な情報発信、安心と安全を提供する役割が求められているのではないでしょうか。

ランドオペレーターとの意見交換

マレーシアの旅行会社の次は、マレーシアにある日本のランドオペレーター。彼らがどのように日本のマーケットを見ているのか。同じ「旅行屋」としてヒントを得られるか。興味と期待をもって意見交換に臨みました。
 普段ランドオペレーターの方とざっくばらんに意見交換をする機会がないこともあり、非常に新鮮で、たくさんの気づきを得られました。ポイントは二つ。
一つは、そもそも旅行会社の本分は、旅行者が行きたくても、言葉が通じにくい、交通の便が悪い、何かしらの危険性がある場所に、安心・安全をパッケージして送り届けることにある点。インターネットの発達のおかげもあり、アクセスしやすい場所への旅行を手配することは容易になっています。それは、単純に手配をすることでは旅行会社の存在意義がなくなりつつあることにつながっています。そのために旅行会社は危機管理体制を整えることが肝要です。この観点でランドオペレーターとの協力体制を築くことができれば、旅行会社の存在価値が高まるのではないか、と考えます。
 しかしながら、そもそも海外に行きたいというモチベーションが低下している昨今において、その需要を喚起する手立てを考える必要があります。ここに二つ目のポイント、旅行会社の「旅行の意義(価値)を創出」する役割があります。以前の海外旅行は、世界遺産に代表されるアイコンを訪ねること自体に意義がありましたが、そのようなモチベーションは絶えつつあります。この次の観光のステージのキーワードが「体験型の旅行」です。生活・自然・文化・食などを体験するという旅行スタイルにより、旅行者と地域住民との交流が促され、違った愉しさを経験できると考えられます。その体験の場を用意し、その愉しさをアピールことで旅行モチベーションを喚起できれば、旅行マーケットを牽引できるようになるでしょう。

Prince Court Medical Centre

Prince Court Medical Centre

メディカルツーリズムにおいて世界で有数の病院と評価されているPrince Court Medical Centre。ここには日本人スタッフが2名おり、マレーシアを含め、近隣諸国に住んでいる日本人が多く利用されているようです。日本人向けの人間ドックパッケージがあるので、やり方によっては日本から送客することができるかもしれません。
 さすがに、7時間のフライトを経て、わざわざ人間ドックを受けに来ることはないでしょうけれど、たとえば、セカンドライフにマレーシアを考えていて、その下見に訪れる際に、ここである種の医療体験をするという提案など。もう少し研究すれば良い仕掛けが見えてきそうです。

三井アウトレットパーク クアラルンプール空港 セパン

クアラルンプール空港から車で5分。今年の5月30日にオープンした三井アウトレットパークは、旅行者視点で興味深いと感じました。
空港との間を行き来する無料シャトルバス、搭乗手続きができる自動チェックインシステム、館内でフライト情報を確認できるフライトインフォメーションディスプレイ、そして無料のお荷物預かりサービス。空港を利用する旅行者が立ち寄りやすく、便利なサービスを兼ね備え、しっかりと買い物を楽しめます。ゆくゆくは搭乗手続きだけではなく、機内預かり荷物を預けられるようになりそうということで、モール経由で空港に行くという新しいスタイルが生まれそうに感じました。
旅行会社視点では、ツアー行程に組み入れる立ち寄り場所として魅力的だけではなく、この場所に出店することで、インバウンド・アウトバウンド両方で商売ができそうで、独特な営業スタイルが築けそうです。

このようにバラエティに富んだ視察をすることで、随所に新しい旅行のカタチのヒントとそこでの旅行会社のあり方が見て取れました。まさに、旅行会社としてマレーシアの「国の光を観る」(=観光)ことができたといえます。また、一人の旅行者として振り返っても、歴史・文化・食を「体験」することで内在する「国の光を観る」ことの愉しさを感じながら、好奇心が掻き立てられていった気がします。
 劇場に例えると、これまでの旅行は、旅行先という「ステージ」に、世界遺産などのアイコンという「大道具」があり、地域住民が「キャスト」として登場し、そこで表現されるストーリーを「観客」である旅行者が観ていました。これからは、その旅行者(観客)を「ステージ」に上げて、「キャスト」になって違った愉しさを体験させる。それを旅行会社が時には監督として、時には観客としてそこに関わるという構図を創ることに光明が見いだせることでしょう。

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