第3回若者トラベル研究会マレーシア海外研修リポート

研修から見えたマレーシアの魅力と日本の課題

株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル
小林 悠馬

マレーシアの良さはどんなところですかと尋ねると、今回の視察で訪れた関係者の方々は口を揃えてこう答えました。「マレーシアは多民族が共存している国であり、それぞれの文化や慣習がうまく調和している。」確かに、日本という単一民族国家で生まれ育った私から見ると、マレーシアの独特の雰囲気はエキゾチックで魅力的なものに映りました。マレーシアは主に、マレー系、中国系、インド系の異なる民族によって構成されますが、それぞれの宗教や文化、慣習に関して寛容だと言われます。今回の研修で初めに訪れたペナンでは、そんな多民族の国ならではの伝統的な街並み、食文化などが観光の重要な要素になっていると感じました。世界遺産にも登録されているジョージタウンの街では、イスラム教のモスクや儒教の寺院が立ち並び、さらにはキリスト教の教会も見ることができます。また、中国とマレーの文化が混ざり合ったプラナカン文化も独特で、昼食で食べたニョニャ料理は特に印象的でした。

ペナンのストリートアート

今回の研修プログラムでは、観光産業だけではなく、それに関連する学術機関、医療機関、政府機関にも訪問させていただき、非常に幅広い目 線でマレーシア観光の現状を見ることができました。
視察初日に訪れたUniversiti Sains Malaysiaでは、私の母校である立教大学で観光を学んだというDr. Badaruddin Mohamedから、マレーシアにおける観光の発展について話を伺いました。マレーシアは観光事業への政府の関わりが非常に強く、政府が莫大な予算を投入して観光プロモーション事業を行ってきました。「Malaysia Truly Asia」というキャッチコピーは日本ではあまり認知されていませんが、海外ではかなり浸透しており、マレーシアのイメージ作りに大きく貢献しているようです。マレーシアでは1960年代から1990年代にかけて大きなマーケットであった日本や東南アジアの近隣諸国に代わり、中東やロシア、ニュージーランドなど比較的遠距離にある国々からの旅行客が増えているといいます。一方、マレーシアが抱える課題として挙げられた、外国人労働者の増加によるホスピタリティレベルの低下については、日本でも今後起こり得る課題であり、一定のサービスレベルを保つための教育や制度が必要になると感じました。

Golden Sands Resort客室からの眺望

その日は、ペナン島北部にあるシャングリ・ラ系列のGolden Sands Resortに宿泊しました。ファミリー層向けのラグジュアリーホテルで、シャングリ・ラならではのスパや様々なアクティビティ施設も充実しています。このホテルに来て驚いたのは、欧米系の客が非常に多いことでした。現地で案内をしてくださった日本人営業スタッフの吉田さんによると、最も多いのがイギリスからのお客様だそうです。かつてイギリスの植民地だったことが最大の要因だと思いますが、そういった歴史的なルーツも海外旅行をする上では重要な要素になると改めて感じました。

翌日はPenang Global Tourismにてペナン州の観光プロモーションについて話を伺い、またPenang Centre of Education Tourismに加盟する各教育機関(college)の説明を受けました。ペナン州ではターゲットを「直行便が就航している都市」と明確に絞り、マーケティングをしているそうです。ペナンの魅力として挙げられる、自然、文化、モダンとトラディションの共存、多民族国家を背景とした独特の雰囲気といったものに加え、ペナンに多く集まる教育機関での留学生の受け入れも重要な点だといいます。日本人にとっても、国際交流やグローバルな人材育成という面で、ただ言語を学ぶだけではなく様々な文化に触れることで思想の幅を広げる事ができるため、非常に良い選択肢となると考えます。

視察2日目の夜にクアラルンプール入りし、翌日はまずHalal Industry Development Corporationへ。ムスリムマーケットが非常にポテンシャルの大きい市場であるということはUniversiti Sains Malaysia でのDr. Badaruddin Mohamedからの話でも出ましたが、ここではハラルの旅行者が何を求めていて、どのように対応すれば良いか、という具体的な話を聞くことができました。ムスリムの人々は宗教上の制約が多いため、航空会社を選ぶところ始まり、事前によく下調べをするそうです。そのため、ハラル対応をすることはもちろんですが、適切な情報提供をすることがムスリムマーケットを取り込むために非常に重要だと感じました。

Apple Vacations社内

その後マレーシアにおいて訪日旅行最大手のApple Vacation社を訪れました。あまり目立たないビルの中にあるのですが、オフィスのインテリアに何よりも驚かされました。日本の居酒屋をイメージして作られた社内は遊び心たっぷりで、入ればすぐに「日本に関わりがある会社」とわかります。通された会議室はなんと掘りごたつ式の座敷になっていました。(もちろん、暑い国なのでヒーターは付いていませんが。)Apple Vacations社は日本行き旅行を主に扱うホールセラーで、日本にも支社がありランドオペレーター機能はそこが果たしています。団体旅行を得意としており、本国から同行するガイドがツアーの品質を高める役割を果たしているそうです。一方で、日本の通訳案内士を保護するための、団体客には通訳案内士の手配を必須とするなどの施策も必要だと感じました。マレーシアでも他の国と同じく訪日旅行がブームなようで、ホテルが全く取れないような状況でも予約を受ける場合もあるそうです。ホテル手配に切実な課題を抱えているという説明には、宿泊施設不足の現状や我々旅行会社の現在のビジネスモデルの限界を示しているように感じました。

Petronas Twin Tower

日本大使館への訪問後、日系旅行会社のランドオペレーター各社との意見交換会に参加しました。日本からマレーシアへの観光客は減少傾向にあり、さらに昨年の航空機事故の影響による日本人観光客離れは顕著であるとのことでした。ランドオペレーター各社は連携を取り、協力して素材開発などに取り組んでいるそうですが、それが逆に旅行会社間での商品の差別化を難しくし、どの会社も同じようなパッケージ商品を店頭に並べている現状にも繋がっているのではないか、と感じました。従来的な観光素材だけでなく、文化交流や学習、体験のプログラムの提供などによって、多様化するニーズに応える魅力的な商品を作ることが必要ではないでしょうか。

視察最終日、まずはMalaysia Convention & Exhibition Bureauを訪れました。マレーシアのMICE業界の現状について話しを伺いました。MICEにおけるマレーシアの競合国はシンガポールやタイなどの東南アジア諸国であり、それらの国々を超えるデスティネーションとなるため、大規模なMICE施設の建設が進んでいます。それ以外でも、クアラルンプールでは至る所でホテルなどの大規模な建設が行われており、マレーシアの経済発展の勢いを実際に体感することができました。マレーシアのMICEの特徴は、費用が比較的安くできること、ショッピング、自然、文化、アクティビティ、リゾートなどの補助的な要素が充実していることが挙げられます。日本ではまだまだ海外から日本に訪れるビジネス客への観光素材のアプローチができていないと言われているため、総合的な魅力の創出についてはマレーシアに学ぶところは大きいと感じました。

Prince Court Medical Centre エントランス

その後、メディカルツーリズムの推進が世界的にも高い評価を受けている医療機関Prince Court Medical Centreへ。ロングステイ客や駐在員、ASEAN近隣諸国からの患者を中心に受け入れており、ホテルのような快適な施設に滞在し最先端の医療技術の提供を受けることができることが最大の魅力です。旅行会社からのメディカルツーリズムへの注目も高まっている中で、制度面や運用上のハードルをいかにクリアし、需要を創出するかが大きなポイントになると感じました。

新興地区のPutrajaya、Cyberjayaを視察後にはクアラルンプール国際空港の敷地内に新たにオープンしたMitsui Outlet Park KLIA Sepangへ。空港敷地内という立地の良さを活かし、航空会社の自動チェックインやディスプレイにてフライト情報をチェックできることが特徴です。また、「ジャパンアベニュー」というエリアもあるため、日本に関するあらゆる情報発信にも期待できます。さらに、「空港+アウトレットモール」という強みを活かし、旅行会社として関わっていくこともできるのではないかと考えました。

最後に、日本とはかなり異なる歴史を歩んできて、観光についてもインバウンド(海外からマレーシアに訪れる外国人観光客)がアウトバウンド(マレーシアから海外に出ていくマレーシア人観光客)や国内旅行に先んじて発展してきたというマレーシアですが、インフラ整備や四季折々の情景など、日本が観光地としてより優れていると思われる点を認識することもできました。その一方で、根本的にマレーシアの方が優れていると感じた部分は、言語対応(特に英語)でした。マレーシアの共用語はマレー語とされていますが、前述の通り多民族国家であるため、英語が公用語と同じ位置付けで使用されています。そのため、街のあらゆる表示には英語が使われており、現地の人々も皆英語を話すことができます。(もちろん、独特の訛りはありますが。)観光客として考えると、交通機関や観光施設における言語表示はもちろんのこと、現地の人々と共通の言語で話をすることができるのは非常に助けになります。そういった受け入れ体制の強みに加え、交通機関などのインフラ整備が進むことで、マレーシアはデスティネーションとしての魅力をより高めることができると考えます。
 一方で、今回の研修で強く感じた日本の観光の発展に関するキーワードは、「acceptance(容認)」「exposure(露出)」です。日本の観光のこれからを考える上で、今後ますます増えると予想される訪日外国人客を受け入れる体制を整備し、お客様として「accept」し続けること、また、逆に日本のあらゆる情報を幅広く海外に「expose」し、また我々日本人自身も積極的に海外を訪れ、様々な文化に「expose」されること。旅行会社の立場としてどうやってそれらに関わっていくことができるか、考えていきたいと思います。

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