第3回若者トラベル研究会マレーシア海外研修リポート

マレーシアから学ぶ日本の旅行業のあり方

ANAセールス株式会社
村上 智美

東京オリンピックを5年後に控え、今日本では国を挙げて観光立国が推進され、インバウンドに対する取組みが強化されています。一方で、日本国内の旅行業界ではインターネットを主流としたオンライン化やLCCの台頭など、急速な環境変化が起こっており、大きな変革期を迎えています。
 これからの旅行業のあり方を考えるにあたり、観光客の誘致に力を入れ、近年急速な成長を遂げているマレーシアを訪れ、観光産業への取り組みを様々な視点から学んできました。
 以下、主な視察先を紹介し、自身の気付きやコメントを報告いたします。

入国審査

マレーシアでは2012年から入国カードが廃止され、パスポートの提示と指紋認証のみで入国することが出来ます。
日本の入国審査では外国人専用レーンでの長蛇の列をしばしば目にしますが、入国審査は外国人旅行者にとって最初に体験するものであり、その国に対して抱く印象に大きく影響するため、入国手続きの迅速化・円滑化は今後の課題であると思います。

世界遺産地区ジョージタウン

ジョージタウンのストリートアート

かつては日本においても新婚旅行のメッカであったペナン島ですが、2008年に世界遺産として登録されたジョージタウンは近年ストリートアートの街として新たな注目を集めています。ジョージタウンの街を歩いていると、あらゆる建物の壁に巨大なアートが描かれているのを目にします。

また寺院・モスク・教会など多民族国家ならではの様々な宗教建築が混在する独特な街並みもこの地区の魅力の一つと言えます。 伝統文化と歴史を守りつつも、新たな文化を取り入れながら変化し続けるこの街のスタイルは、日本における「まちづくり」のヒントとなるかもしれません。

マレーシアサインズ大学

マレーシアサインズ大学の教授の話

観光学の教授の話によると、マレーシア政府は「マレーシア観光年」などのキャンペーンを実施しながら外国人旅行者の誘致を図ってきましたが、特に外国人旅行者の受け入れにおいて強みとなっているのが、英語力の高さとホスピタリティなのだそうです。
日本のインバウンドの成長には、グローバル人材の育成と接遇向上は欠かせない課題です。 また、外国人旅行者にとって、白川郷や飛騨高山など日本らしさの残る地方の観光地は魅力的であるものの、正確な情報の不足や言語の問題、交通面での不便さなどから、行きたくてもなかなか行けないという意見が挙がっていました。
昨今のアジアからの観光客をはじめとする訪日旅行者の増加に伴い、東京や京都といった人気の観光地においては、宿泊施設の不足が大きな課題となっています。今後はこういった地方への分散や、民泊などの新たなビジネスモデルが解決の一つとなるでしょう。
マレーシアでは小さい頃から海外へ興味を持たせるような学校教育がなされており、海外旅行促進の一躍を担っています。
近年、日本の若者は海外旅行離れの傾向にありますが、海外への関心を引く教育の実施や留学など、教育機関を巻き込んだ海外旅行の促進が必要だと思います。

Penang Global Tourism&Penang Centre of Education Tourism、KDU College

KDU College

マレーシアは多民族国家ということもあり、もともと寛容性と柔軟性に長けており、外国人旅行者を受け入れることに対してもあまり抵抗がないそうです。
日本とマレーシアではそもそも国民性も異なるため、全く同じようにとはいきませんが、国民一人ひとりが外国人旅行者の受け入れに対する意識を変えていかなければなりません。
また、都心の交通機関の利便性や、女性が一人でも安心して旅行出来る安全性といった、外国人旅行者にとって良い面がある一方で、案内標識の多言語化やWi-Fiエリアの拡大など、環境面で改善すべき点はまだ残っており、2020年の東京オリンピックまでの早急な環境整備が必要です。

Halal Industry Development Corporetion(HDC)

HDCの社内

イスラム教徒にとってかかせないハラルは、全体の約6割をイスラム教徒が占めるマレーシアでは一般的ですが、日本ではまだあまり知られていません。
しかしながらムスリムは今後の日本のインバウンドにおいても大きなマーケットであることは間違いありません。
正確な知識やノウハウの提供により、祈祷室やハラル対応の食事といった、宿泊施設や観光施設でのムスリム対応は今後積極的になされるべきです。



旅行会社アップルバケーション

アップルバケーション社の社内

訪日旅行専門の旅行会社として、これまでに多数の旅行客を日本へ送客してきたアップルバケーション社。東日本大震災発生後は風評被害により日本への渡航を自粛する傾向が強く、訪日旅行は伸び悩んでいました。そのような状況下で、それまでマレーシアではそれほど知名度のなかった北海道に目をつけ、あえて日本という名前を出さずにプロモーションを行ったのがアップルバケーション社でした。このプロモーションは見事に成功し、今ではチャーター便の商品を企画するなど、インバウンドにはかかせない旅行会社となっています。
日本にはまだ海外に知られていない魅力的な観光地がたくさんあります。東京周辺やゴールデンルートなど、訪日外国人の需要が集中する地域以外の需要を創出するためには、地域間での連携や情報発信が重要です。また地方都市の季節ごとのテーマ、桜・花火・祭などに着目した魅力を発掘しながら、積極的に海外に発信していくことが必要です。
アップルバケーション社によると、日本へ行きたいと思うきっかけはポップカルチャーやテレビドラマなど、メディアから得る情報の影響が大きいそうです。更なる訪日旅行者の増加を図るためにはグローバルなメディア戦略を展開していくことが重要であり、特にWEBやSNSの積極的な活用が不可欠です。更には海外メディアの日本への招致、取材支援や海外ドラマ、映画ロケの誘致等、訪日旅行の動機付けに積極的に取り組んでいくことが重要です。

ツアーオペレーター

現地にいるからこそ分かる、日本人から見たマレーシアの観光業について、話を聞くことが出来ました。
興味深かったのは、誰もがマレーシアには観光素材が少ないと口を揃えながらも、マレーシアにしかない新たな観光素材の発掘や、単なる観光ではなく教育旅行や体験型旅行、ロングステイなど、テーマを持った旅行の企画提案に取り組んでいるというところでした。
新たな旅行需要を創出するには、地域の歴史や伝統、文化などのそこにしかない独自の観光資源を活かし、普及に努めていくことが重要と感じました。
また、個人旅行化が進む中での旅行会社の存在意義として、個人では出来ない体験や個人では行けない場所を企画商品化するなど、旅行者への正確な情報発信、安心と安全を提供する役割が求められているのではないでしょうか。

総括

今回のマレーシア視察を通じて、日本の観光産業の発展のためには、観光立国に向けたインバウンド需要に対する「短期的視野での環境の整備」と、「中長期的視野での国民の意識改革」、同時に「更なる情報発信による新たな需要の創出と分散化」に取組む必要があると感じました。
また、日本国内旅行は国際情勢に左右されない市場であり、インバウンド需要に対する取組みだけでなく、「日本国内の旅行総需要も維持・拡大」していく必要があり、取組みを強化していく必要があると考えます。
一方で、そのような取組みは各旅行会社単体の取組みだけでは成しえないことも多く、今後の旅行業は、「政府・各地方自治体との協力体制」が必用不可欠であり、官民一丸となった施策・取組みが必要であると考えます。
そういった取組みを行うことで、インバウンド需要を確実に底上げし、国内旅行総需要を維持・拡大することができ、ひいては日本国・国内各地域に対し更に経済波及効果を生み出すことができ、日本経済の活性化・好循環に結びつけることができると考えます。  以上

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