第3回若者トラベル研究会マレーシア海外研修リポート
マレーシア海外研修リポート
東芝ツーリスト株式会社
事業企画部 原口 由佳
■研修旅程:2015年7月6日(月)~11(土) マレーシア(ペナン/クアラルンプール)
ペナン市内について
マレー系、インド系、中華系のそれぞれの寺院やレストラン、食材店、洋品店等が混在する街。食、文化、生活様式等の多様性が評価され、ジョージタウンが世界文化遺産に登録されている。
近年、建物に絵や針金で表現されたアート作品も現れ、自然、文化、芸術を楽しめる点をPRしている。建物に絵を描く場合、登録が必要だが、事後登録でも良い等、ルールは緩やかである。
<マレーシアの現状>
University Sains Malaysia
- マレーシア政府は観光誘致に多くの資金を投じているが、費用対効果は疑問。観光業は、周辺国からの出稼ぎ労働者が占める割合が多く、マレーシアらしいおもてなしサービスが失われ、自国民の雇用問題も発生。
- マレー語のほか、英語を初等教育より実施。国民は2か国語以上を習得。
- 欧米大学提携英語教育目的の滞在の他、医療ツーリズム、ハラール視察等の需要あり。
- ホームステイホストファミリー向け教育を実施、受け入れ態勢を社会全体で強化。
- LCC普及により旅行ができる層が拡大。旅行会社利用は年配がメイン。
<視察から学んだ日本の課題>
- グローバルなコミュニケーション力としての英語習得、英語表示やツール提供。
- ムスリム受入体制構築(ハラール認証、お祈りスペース)。
- 日本流おもてなしをどのように表現するか?
- ホスピタリティー産業における外国人労働力については、一定の規制が必要か?
- アウトバウンドが減少する中、海外に行く動機をどのように喚起するか?
- OTA台頭の中、実店舗を持つ旅行会社はどのように生き残るか?
- ホームステイのマッチング等、旅行会社が入らなければ難しい旅行に商機。
- 日本都市部の観光集中を地方に派生するには?
- ホスピタリティー産業における外国人労働力については、一定の規制が必要か?
- 日本中抜けの訪日外国人ツアー参加者に正しく日本の魅力を伝えるため、日本のガイド利用促進の他、入場規制等による訪問者平準化も必要。
Penang Global Tourism & Penang Centre of Education Tourism
<ペナンの観光と教育誘致>
- 歴史、文化、自然のほか、欧米の大学と提携した教育プログラム提供等により、他国と比較し、比較的安価に英語教育が受けられる点から、FAM、映画、ラジオ、ラッピング広告、ビデオクリップ、イベント、サーチエンジン、ソーシャルメディアを通じペナンをPR。各学校は、国際スタンダードの教育を提供し、海外からの学生を積極誘致。
<視察から学んだ日本の課題>
- 日本の学校カリキュラムの、グローバル人材育成への道とは?
- 観光協会の役割が、個別地域ごとに分断されていないか?エリア連携。
KDU College
<KDU Collegeとは>
- 座学と現場連携の職業実践訓練を併用した専門学校。
- 旅行業への就職は20%程度。
- 多文化のお客様対応による、グローバル人材教育。
<視察から学んだ日本の課題>
- 人間が介在する事での柔軟な例外対応、目的地ではなく、同行者、移動手段も商材に。
- SNS普及の中、良い体験、悪い体験ともに拡散が早い。オリンピックまでにリピーターを獲得できる環境の整備を。
- 気候、食事、交通、文化、安全の面で優れている日本も、言葉や習慣の面での受け入れ態勢は発展途上。旅行者と市民がお互いに寛容性を持ち、多文化から学ぶ姿勢が必要。
旅行者が必要とする情報を集約し、いつでも取得できる環境を作る。 - 支払によるストレス軽減。電子マネー、クレジットカード等の決済を全国観光地に普及。
- 快適すぎる日本から海外へ出かける意味とは?他文化への興味、海外旅行需要喚起策は?
Halal Industry Development Corporation
<ハラールインダストリー>
- ハラールインダストリーをマレーシアが主導し、産業化を目指す。レストラン検索含むアプリも提供。
- イスラムの教えに則った商品にハラール認証を付与(RM200)。日本からの視察も。
例)マレーシアAEONは、食材、レジ、カゴもハラールとその他を区分。
Apple Vacations & Conventions Sdn.Bhd.
<アップルバケーションズ>
- 日本に特化した旅行会社。商品企画、手配、ツアー催行まで全てを行う。
大震災後には、日本という名前を出さずに北海道を販売。現在もHIT商品となっている。 - オフィスは日本の居酒屋をモチーフに、日本を前面に出した店舗づくり。
- ホールセラー用、ムスリム用、セルフ予約で発券のみ等、マーケットに合わせて対応カウンターを分けている。
- 平均年齢の若い会社で、社内の円滑なコミュニケーション、社員の働きやすさ等、環境を整えている。
- マレーシアエリート層の日本留学の経験や、TV等メディアを通したイメージから、日本に興味を持つ顧客が多く、マレーシアでは出来ない事を日本で体験するツアーが人気。
チャーター便を飛ばす等、売上は右肩上がりで、日本47都道府県から表敬訪問を受ける。 - パンフレットには料金を掲載せず、企画に興味がある顧客からのアプローチを待つ事で、価格競争に巻き込まれる事を防いでいる。
<視察から学んだ日本の課題>
- 日本で体験できないものへの興味に訴えるには?
- 働きやすい労働環境づくりによる、優秀な人材の確保。
- メディアとの連携による、グローバル嗜好への転換
- テーマ性、個性が、顧客から見える形で表現されているか?
- その会社に依頼をしたい、しなければならない理由とは?
KUL市内
- 至る所で工事を行っており、これから発展する勢いのある国という印象。
- 気温が高く、交通手段は主に車であるため、市内は常に渋滞。バスは定刻には来ないため、市民の足はタクシー。
在クアラルンプール日本大使館
<日本大使館の取組み>
- 日本国民の安全確保が第一。クアラルンプールについて、特に大きな危険情報は見受けられないが、マレーシア国内では一部Isramic Stateへの傾倒者も。
- マレーシアから日本への送客について、現在の所、政府からの具体的要請は無い。
- 日本からマレーシアへの修学旅行は年々増加。英語の入門国として選択されている。
<視察から学んだ日本の課題>
- リピーター維持、向上策とは?
Tour Operator
<マレーシアオペレーター>
- 団体旅行から個人旅行にシフト、今後は街歩き等、細かい知識が必要なツアーに商機。
- 東南アジアの中で、マレーシア独自色をどのように出すか?
- マレーシアでは旅行は保護産業であり、マレーシア国家ライセンスガイドの保護として、7名以上の団体には、必ず国家ライセンスガイドを雇うルールがある。
<視察から学んだ日本の課題>
- FITでは得られない、「安心と安全」を提供する事が旅行会社の強み。言葉、文化の違いフォローが可能。
- 体験がキーワードとなる。
- 言葉が通じない、不便で、行きづらい、一人では危なそうな目的地が旅行会社を利用する価値のあるデスティネーション。
- 現地の正確な情報提供と共通アプリ(旅行会社を利用した旅行期間のみアクセス有効)
- 日本人ガイドの活用により正しい日本文化を世界にPR、リピーター創出。
冬など旅行閑散期には、小中学校で、英語授業補佐のほか、実際に外国の方と接しているプロガイドの職業紹介により、グローバル人材育成の一助とする。
Malaysia Convention & Exhibition Bureau
<マレーシアMICE誘致>
- 歴史、文化、自然、リゾート、ゴルフ、ショッピング、アクティビティーに加え、ハラール、ベジタリアン等、多彩な食や他国に比べてリーズナブルな開催費用をPR。
- 50名、100名、200名等、誘致人数によってサービスを提供。アジアのトップMICEデスティネーションをめざし、施設を複数建設中。
<視察から学んだ日本の課題>
- 開催都市に加え、幅広く日本の魅力的な素材をPR。
- MICEプランナー人財育成。
- 開催数年前から主催者との関係性構築、主催者の希望、参加者の希望を同時に満たす選択肢の提供。安全、安心、代案準備。
Prince Court Medical Centre(視察)
<プリンスコートメディカルセンター>
- 2008年開業、マレーシア国営石油ガス会社資本。277室完全個室。KL中心地に位置し、日本大使館から徒歩5分圏内。
- 日本人向け事業として、外部メディカルコンシェルジュを招き、マレーシア駐在日本人の利用が主。午前受診の健康診断の結果が14時までに英文で出される。電子カルテで結果がデータ化されるため、帰国後日本にてセカンドオピニオンが取れる。
- 現在の所、旅行会社を通した取り扱いはなし(旅行会社での検診内容詳細説明が困難)
- ターゲットは、駐在者、Malaysia My 2nd Home利用者、出張視察旅行客で、ホテルのような環境で受診できる点をPR。世界最先端水準の医療機器と専門医を取り揃えており、コストは日本より高いが、海外視察やゴルフのついでに受診してほしい。
<視察から学んだ日本の課題>
- メディカルツーリズムについては、日本国民の医療の機会が失われるとして、日本医師会が反対。諸外国のように外貨獲得を目的とした展開は行っていない。
- 旅行会社として取扱う場合、日本に無い施設、医療機器の見学、KLでのセカンドライフ下見、ロングステイのパッケージ等が考えられる。
Putrajaya、Cyberjaya、Mitsui Outlet(KLIA Aeropolice)
<プトラジャヤ>
- 環境に配慮し、綿密な計画により建設されたモデルシティー。首相府、省庁、政府高官接待機関、宮殿、モスク、公園、博物館、広場、コンベンションセンター、湖がある。
<サイバージャヤ>
- マレーシアにシリコンバレーを作るというコンセプトで、政府が力を入れた地区。HP、DELL、日立サンウェイ、NTTコミュニケーションズ、大学等がある。
<三井アウトレット>
- KLIA エアロポリス計画による周辺地域のビジネス、観光、雇用機会創出拠点の第1弾として開発。空港から5分の立地で、無料シャトルバスを運行。
- 館内には、フライトインフォメーションボードの他、自動チェックイン機を設置、無料の荷物一次預かりサービスも実施。今後は、搭乗便への手荷物預け入れを検討。
- 外貨両替の他、バス、タクシー、レンタカーが手配可能なチケットカウンター、設置。
- 外国人向けクーポン発行
- 日本文化を体験できるジャパンアベニューゾーンを展開。
- ハラール対応(取得予定)の飲食店、お祈りスペース設置。
所感
視察を通して、観光産業に重点を置き、積極的な誘致策を行っているマレーシアにも、法制度が整備途上である点や人材確保をはじめとする多くの困難がある事が分かりました。日本における継続的な旅行業発展のためには、観光産業による誘致の過程で日本企業に利益が残る仕組みの構築や、観光地を守るための適正価格化や規制、正しい日本文化発信によるリピーター確保の他、旅行会社個社ごとの専門性を顧客に見える形で提供する必要性を感じました。多様な企業、機構への訪問という、大変貴重な機会をいただき、ありがとうございました。
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