派遣生レポート

マレーシアで経験したこと

京都大学 経済学部 経済経営学科
岩本 篤起

1981年、マレーシア第4代首相のドクター・マハティールは、アジアを先導する日本や韓国に関心を向け、手本とし、経済発展を遂げようと提言し、そのために当時打ち出された様々な政策が「ルックイースト政策」と呼ばれています。そこから30年の時が経ち、かつての勢いも衰え経済停滞に頭をかかえる日本が、今度はマレーシアに関心を向けて学ぶべきではないかということで、去年からマレーシア政府観光局によって「ルックマレーシアプログラム」が企画されました。その第2回目のプログラム派遣生としてマレーシアに滞在した3週間に経験したことや学んだことを書いていこうと思います。

今年2012年はLCC元年とも言われ、格安の航空会社が日本にも登場しています。今回はその1つであるマレーシアの航空会社Air Asiaの特別協力のもと、航空券をいただき日本とマレーシアを往復しました。私自身も初のLCC体験でしたが、従来のレガシーキャリアと比べても遜色のない非常に快適な空の旅でした。座席の後部のパネルを無くしたり、機内食などのサービス有料化、経営の効率化など、可能な限り抑えられるコストを抑えたLCCは今後航空業界を席巻すること間違いなしだろうと感じました。

マレーシアには夜に到着し、空港からKL(クアラルンプール)市内のホテルまでバスに乗って移動しました。それまでの私の海外経験は香港に5日間旅行をしただけで、今回のマレーシアが2度目の海外だったのですが、バスの車窓から眺めていたマレーシアの第一印象は、香港に似ているなといったものでした。異国の地で、少なくとも日本とは違う景色を眺めればそれまで唯一の海外渡航経験のことを思い出してしまうのは当然のことだったのかもしれませんが、両方とも世界的に見れば地理的にも近く、急速に発展しつつある国であるということを考えれば、客観的に見ても似ている国だと言えるのかもしれません。

初めの6日ほどは主にKL市内の観光や、企業や国際機構への訪問を行いました。実際に訪問したのは、マレーシア政府観光局本局、日本大使館、JICA、JETRO、Panasonic、United Voice(学習障害を持つ人々がSelf-advocacyを提唱し、自らで運営する団体)です。各団体が行なっていることや、マレーシアについての全体的な話を伺いました。マレーシアは多民族が共生する国であるため、多民族が活躍できる工夫がそれぞれの職場で随所に施されていたのが印象的でした。

2泊3日だけでしたが、カンポン(田舎)でのホームステイも体験しました。お世話になった家に最初はマレーシア語しか話さないHost fatherしか居なくて、同じところに座っているのにまるで会話にならなくて、この先どうなるのだろうと焦ったりもしましたが、後から英語も話せる家族と出会いなんとかコミュニケーションをとることができました。

マレーシア滞在後半は、KLIUCという大学にお世話になりました。1日4時間程度の授業を受け、他の時間は学生と仲良くなったり、観光にでかけたりしました。

3週間を通して常に意識させられたのが、マレーシアが多民族国家であるということです。主にマレー系、中華系、インド系のマレーシア人が存在し、共生しています。またそれぞれが順にイスラム教、仏教、ヒンドゥー教を信仰しており、宗教観の薄い日本に住む私は、現地で宗教について考えることが多かったです。3週間マレーシアに滞在して人々が真剣に宗教に向き合っている姿を目の当たりにしたこと自体は印象深かったのですが、日本での私はあまりにも日ごろ宗教に馴染みが無く知識もなかったため、3週間という短い期間ではまだまだ分からないことが残り過ぎているというのが正直なところです。滞在前に比べると宗教に対する興味は大きくなっているので、これからより詳しく学んでいこうと思います。

また多民族国家であるために、マレーシアでは多くの言語が用いられています。公用語のマレーシア語を始めとして、イギリス植民地時代の影響が残った英語、中国語(広東語や普通話など様々)、タミル語などが使用されており、各民族間の意思疎通が行えるように大抵のマレーシア人は複数の言語を話すマルチリンガルです。

私は日本でも普段から英語や中国語を習得しようとしているので、ほとんどの人が当たり前のように何カ国語も用いるマレーシアの言語環境に大変興味を持っていましたし、滞在中には言語習得の秘訣のようなものを掴めれば良いなと考えていました。滞在が終わった今、改めてその秘訣は何だったのかと考えると、やはり言語を日頃から実際に使うということだったよう思います。日本人の多くは学校で英語を学びますが、あまり上手くはなりません。それは日本の英語教育に欠陥があるというよりも(無いわけではありませんが)、国内で英語を日常的に使用する必要もなければ実際に使っている人もいないからだと実感しました。そしてマレーシア人が使うことのできる言語というのは普段から使っている言語でもあるということです。今回の3週間の後半はKLIUCという大学に滞在していましたが、そこで日本語を学ぶ学生は上級クラスであっても日本語があまりうまくありませんでした。そこでは、普段用いない言語を学校の授業だけで習得することの難しさ、日本の英語教育の実情をふと思い出しました。

しかし、言語を習得するために教育や学習が無駄なこと、またそこまでではなくとも効率の悪いことだとは思いません。私が今まで多くの時間を英語学習に費やし、なおかつ今回のマレーシアのように実際に英語を用いた生活をおくって最近考えるのは、言語を習得するにおいて机の上で言語を学習することとコミュニケーションで実際に用いることの両者にたいした差はなく、本質的にはただその言語に莫大な時間接していなければならないということです。つまり、どちらかが英語習得への効率の良い道だ、というよりも英語を「学習」している人よりも英語を「使用」している人のほうが結果的に英語に触れている時間が長くなっているだけなのではないかいう単純な話です。

よく、日本人が英語を学んでいない、学ぶ気が無い理由として、「日本に住んでいる以上必要がないから」と考えている人がたくさんいます。日本の英語教育の中身は他国のそれと比べてもあまり変わりのないものであり、何故日本人が英語を苦手としているのかというと、英語教育の方法が劣っているからではなくこのように考えている日本人が多いからだと思います。しかし本当にそうなのでしょうか。本当にそう考えている人に強制的に英語を教えること自体、非常に効率が悪いことですし、今現在はそこまで必要がないにしても、これから日本社会がどのように変化していき、それに連れてどのくらい急速に英語が必要となるかについてを教育するべきではないでしょうか。

私がマレーシアで最も印象的だったのは、マレーシアの独立記念日の前夜にKLCCというKLの中心地の1つで参加したカウントダウンイベントです。マレーシアの多民族の人々がたくさん公園の池の周りに集まり、ブブゼラを鳴らしながらBGMに合わせて騒ぎ、Satu Malaysia(マレーシアの国が1つにまとまろうという重要な概念)の歌を皆で歌い、現地の歌手も歌い、カウントダウンが終わるとものすごい勢いで花火があがりました。私の拙い日本語では表現しづらいですが、発展している最中の国ならではの独特の活気に大いに魅了されました。これから毎年参加したいと思ったくらいです。

マレーシアは本当に活気がある国です。初めの1週間ほど滞在したホテルAlpha GenesisはKLの中心地に位置しており、ホテルの部屋で寝ようとしていても夜通し外から音楽と人の楽しそうな声が聞こえてきました。これが日本であれば近所迷惑だとすぐに警察が飛んできます。今回一緒に行動した16人のメンバーの1人は、活気があるというよりものんびりしているというようなことを言っていました。マレーシアの人は時間にルーズで、約束の時間は守られないことのほうが多いです。また電車の中で携帯電話を使って通話していても誰も注意しません。私はマレーシア人ではないので本当のところは分かりませんが、おそらく電車の中で通話することを迷惑だとも考えていなければ気にも留めていないのではないかと思います。マレーシアには活気があるというのも、皆のんびりしているというのも正解で、一見真逆のように思えますが、この2つの側面は結構似ているとも思います。ゆとりがあるというのが2つを合わせた上手い表現ではないでしょうか。私はマレーシアのこのゆとりのある雰囲気がすごく好きですし、自分に合っているなと感じました。

今回は3週間、16名の大学生とマレーシアで過ごすことで様々な経験をすることができました。この経験を何らかの形で将来に生かしていけたらなと思います。マレーシア政府観光局をはじめ、私たちの派遣をサポートして下さった関係者の方々には本当に感謝しています。ありがとうございました。