派遣生レポート

旅は終わらない

学習院大学 法学部 法学科
細川 咲輝

「マレーシアに行って、何を学んだ?」

これは、わたしがマレーシアから帰ってきてから何度も何度も受けた質問です。この質問を受けるたびに、わたしは「う~ん…」と悩んできました。とても短い言葉で表現できるものではないですし、マレーシアでの経験を通じて自信をもった反面、それがどうも、日本で活かしきれていない自分もまたいるからです。わたしにとって、少し耳の痛い質問ですが、それでも整理しなければいけない課題でもあるこの質問。このレポートを内省の場として「マレーシアでの経験」を整理したいと思います。

2012年8月25日~9月15日までの3週間、私たちはマレーシアを訪問しました。関東から10名、関西から6名選ばれた総計16名のメンバーですが、1,2回事前研修で会ったものの、ほぼ初対面の状況。これからの3週間マレーシアだけでなく、参加メンバーともどのような関係を築いていけるのか、少し不安に思いつつ、日本を離れました。

「不安しかなかったのか?」と言われれば、もちろんそうではありません。不安よりも、未知の世界へ飛び込んでいくわくわくした気持ちのほうが大きく、それはマレーシア滞在中も変わることはありませんでした。アジア圏を訪れたことのないわたしにとって、プログラム参加前のマレーシアに対するイメージは「豊かな自然」そして「多民族国家」この2つだけでした。

では、なぜわたしはこのプログラムに応募したのでしょうか?

それは、「器の大きい人間になること」 これがわたしの人生における目標であったためです。「器の大きい人間」それは多様なbackgroundを持つ人間を受け止めお互いに尊重できる人間だと、私は考えます。翻って、マレーシアはどうでしょうか?マレー系・中華系・インド系、他の民族…多様な価値観をもつ人がいる中で均衡を保ち生活している国、それが私の中の「多民族国家・マレーシア」でした。

私自身が考える日本の課題として、「常識の枠からはみ出ることへの恐怖心」があると思います。人と同じことをしていないと不安、自分と考えの違う人とは付き合わない…確かにわたしも、自分と真っ向から対立する考えを持った人と一生仲良く付き合っていこう!と最初から考えることは抵抗があります。しかし、避けているだけ、守っているだけではイノベーションが起こらないことも、また事実です。今の日本に必要な人材、それは「自分と異なる価値観を持った人間を受け入れ、全く新しい価値を創造できる、提供できる人間」なのではないでしょうか。

そこで、自分自身が「器の大きい人間」になれるようなヒントを、そして将来キャパシティの大きい人間を育てられるような教育システム構築のためのヒントを学びとるために、ぜひこのプログラムに参加したいと考え応募しました。

そんな思いを胸に、わたしがこのプログラム参加中、常に心がけていたことが2つあります。それは「積極的に学ぶ」ことと、「自分の価値を考えて場に貢献すること」この2つです。参加メンバー内で学年が1番上だということもあり、「inputはもちろん、どうやってoutputするか」そして「マレーシアでかかわった人たちに対してoutputできることはないか」「自分が貢献できる場面はないか」について、考え抜いたプログラムでもありました。


わたしたちはこのプログラムを通じて、初めの1週間はクアラルンプール市内を中心に在馬日本大使館、マレーシア政府観光局、パナソニックマレーシア工場、JICA、JETROなどを訪問しました。そのあと2泊3日のカンポン・ホームステイを経て、およそ2週間程度IUKL(KLIUC)大学に通いました。

「自然豊か」「多民族国家」というイメージしかなかったマレーシアですがクアラルンプールに到着した時、自分のイメージがいかに断片的で、古臭いものであったかを実感しました。

私の目に映るクアラルンプールは、ツインタワーに象徴されるように、まさに成長期で活気あふれる街でした。マレー系・中華系・インド系その他バングラディシュやネパール、タイ、インドネシア、フィリピンなどなどアジア各国から訪れる人々であふれており、自分が外国人であることをあまり感じることなく毎日を過ごすことができました。もし私がマレー人でそして日本にいた場合、ここまで「外国人である」ということを意識せず過ごすことはできなかったと思います。マレーシアではイスラーム教・仏教・ヒンドゥー教など様々な宗教が受け入れられているなど、異なる価値観を取り入れる素養が日本より豊かであると感じました。

つまり、マレーシアの人々は自分と全く違うbackgroundを持つ人と付き合っていくことになれており、お互いを分かり合おうという姿勢が自然に身についていました。この姿勢はクアラルンプールに住む人たちだけでなく、ホームステイのホストファミリーや、留学生活中などわたしがマレーシアで出会った人たちみんなに通じるものでありました。たとえば、わたしのホストマザーはマレー語しか話すことができず、わたしはマレー語を話すことができなかったのでコミュニケーションをとることがはじめはとても難しかったです。しかし、ホストマザーも積極的にわたしに話しかけてくださり、またわたしも「言葉はわからずともなるべくそばにいよう!」と心掛けたことでわたしの名前を覚えてくれ、どんどん仲良くなることができました。また、大学に留学初日、寮の部屋が停電するというハプニングがありましたが助けてくれたのは中国人留学生でした。

現在日本を取り巻く国際情勢は厳しいですが、国と国民は切り離して考える、「自分の目で見て自分の耳で聞いて、自分のあたまで考える」ということの重要性をはじめてあたまだけでなく実体験として理解しました。自分の器を大きくするためにも、この経験は非常に重要でした。

マレーシアの授業は日本に比べ先生と生徒の距離が非常に近かったのがとても印象的でした。わたしたちのために特別に組まれた授業で少人数制だったということもあるかもしれませんが、それでも日本の先生よりも生徒に対してとても教育熱心でした。たとえば、わたしが「教育についてもっとお話しを聞かせてほしい」と質問したところ、「ぜひ!」と快諾していただき、人生の相談にものっていただきました。マレーシアの大学で教わった先生とはFacebookやEmailを通じて今も交流をしています。

日本の大学や教育現場ももう少し生徒との距離を近づくべきだと感じました。先生と生徒の間に信頼関係が生まれると授業に対するモチベーションアップにもつながりました。そこで、まずはわたしたちから、積極的に先生に近づいてみようと考え、日本に帰ってから先生に積極的に話しかけてみたところ、思ったより嫌がられず、質問に答えていただくなど受け入れてもらうことができました。ここでもやはり、先入観を捨て去り、まずは自分から歩み寄るという姿勢が重要だと実感しました。

結びとして、このようなプログラムを提供してくださった、マレーシア政府観光局の方・わたしがどんなにおかしなことをしても許してくれた「器の大きい」第2回ルックマレーシアプログラムに参加したメンバー・このプログラムの受け入れてくださったすべての方、ホストファミリー、マレー語を通訳してくれた同じホストファミリーだった先生、つたない英語をくみ取ってくれた先生方、ホスピタリティあふれる大学でできた友達みんなに感謝の気持ちを伝えたいと思います。

言葉で「感謝している」といくら言っても、書いても本当に伝わることはほんの一部でとってももどかしいのですが、本当に本当に、どうもありがとうございます!!

マレーシアでの経験を糧にこれからも「器の大きな人間になること」、志望動機に掲げた「異質を受け入れて新しい価値を創る社会づくりに少しでも貢献すること」この目標を達成することが皆様への恩返しにつながると信じて、これからも精進していきたいと思います。(ここに書いてしまったことで、もう逃げられないですね・・・。)

マレーシアへ行くとき、新しいことに挑戦しようとするときに、いつも背中を押してくれたゲーテの言葉をここに記したいと思います。

あなたにできること、あるいはできると夢見ていることがあれば、今すぐ始めなさい。向こう見ずは天才であり、力であり、魔法です。さあ、今すぐ始めなさい。

マレーシアに飛び込んだからこそ学んだことを抱えて、それでは新たな旅へいってきます! またいつか!